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同期の君が言うことには  作者: 卯月はる
彼氏と彼女
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おいで、茜 -side翠-



茜を通して、俺の世界は広がった。


「半分こしよー!」


コンビニから家までの道を、アイスを食べながら歩く。


「買い食いってなんでこんな美味しいんだろうねー!」

「よかったね」

「部活帰りによくみんなでコンビニでアイス買ったな。青春だよねぇ」


両手が塞がって手繋げないじゃんなんて、下らないことを考えて飲み込んだ。


「アイスといえば、パッキンするアイスあるでしょ?うち3兄弟だから誰が2つ食べるかで大喧嘩してたな。翠は?」

「兄と年離れてるし喧嘩したことないな」


パッキンアイスを分け合った記憶どころか、食べた記憶もない。


「え!そうなんだー。うちは今も帰ると喧嘩ばっかりだよ。仲良しなんだけどね」


無邪気に笑う茜が愛おしい。独り占めしたい。

こんな感情を抱いてるなんて、茜は夢にも思わないだろう。


茜には「何考えてるかわかんない」と言われたことはないが、表情に出にくく、ポーカーフェイスが得意な自覚はある。


思い知って欲しい気持ちと、知られたくない気持ちが行ったり来たり。


家で冷凍庫にアイスを詰め込んだら、茜に手を伸ばす。


「おいで、茜」


抱きついて来た茜の唇を食んで、舌を絡め取って、手をシーツに縫い付けて。

呼吸を奪うくらいのキスをしたら、お酒を飲んだときみたいに思考が溶けて、委ねてくれる体を抱きしめて。


「かわいい」


頬を紅くして、甘えるように擦り寄る茜。

下ネタなんかは平気で話すのに、こういう反応は初心なギャップ。

近づくと瞼を閉じてキスを待って、唇を離すと舌を出して吸ってやると喜ぶ。


キスもセックスも好きじゃなかった茜に、気持ちよさもキスのねだり方も教えたのは俺だという、優越感。


いつも周りの“みんな”のことばかりの彼女が、俺だけを映して俺のことしか考えられなくなっていくのが愛おしくて。


もっと溺れて。


全部俺のものになって。


頬を赤らめて、とろけた顔でうるんだ瞳で、俺に手を伸ばして名前を呼んでくれる。


純真な彼女が、恥じらいながらも俺に穢されて行く感覚。


自分の快楽より、求められる快感があるのなんか知らなかった。


涙目でイジワルって言わせたい。

欲に塗れた声で名前を呼ばせたい。

快楽に溺れた顔で、“もっと”って強請らせたい。


支配欲が満たされるその瞬間が、最高にゾクゾクする。


それから襲い来る、好き勝手汚い欲を吐き出した、罪悪感。


なのに、そんな俺の頭の中なんて知らず、茜は無邪気にぎゅっと抱きついて来る。


「おやすみ、すいー。だいすき」


無理をさせすぎたかもしれない。

少しぐったりして事後の気怠さもそのままに、茜はそのまますぅすぅ寝息を立て始めた。


寝付きの良さが羨ましい。


「おやすみ」


寝付きの悪い俺は、普段点けないベッドライトなんて点けて、寝顔を眺めながら、茜の頬を撫でる。


たまに、不安になるのだ。

半分騙すみたいに誘導して付き合った自覚はある。


茜は「私に選ばせてくれて優しい」とポジティブに受け止めるが、選ばせるのは言質を取って追い詰めるテクニックだ。無垢な瞳で言われると罪悪感が募る。


好かれている自信はあるし、茜のことだから付き合っている間はきっちり「彼氏います」と言ってくれるだろう。


でもそれって俺との関係に、無理矢理付けた「彼氏」ってラベルがあるだけなんじゃないか。

たまたま同期だっただけで、毎日昼飯に行くのは俺じゃなくてもよかったんじゃないかって。


見目は多少は好みなのだろうが、茜のストライクゾーンはまあまあ広いし、好みだからって手に入れたいよりただ眺めてたいタイプだ。


…別れたら「幸せになってほしい」と、はにかんで言うのだろうか、他の誰かに。


恋愛よりみんなといることに価値を見出す彼女の特別ってなんだ。


食べ物もプレゼントも喜ぶが、たぶんそれだけ。


最優先は友達で合間に俺だし、突き放せば離れるだろう。飴と鞭を使おうにも、飴も鞭も「うん、そっか」と額面通りにしか受け取らない。

これまでやってきた駆け引きは、ひとっつも通用しない。


「んー、すい…」


ごろんと寝返りを打ってはだけた胸許には赤い花びら。


見えないところで我慢しているが、もっとキスマークを付けたいし、本心では甘噛みじゃなくて歯型だって付けたい。

痕はつかないように首を甘噛みしたときは嫌がらなかったけど、ダメかな。ダメだよな、やっぱ。


…何考えてるんだろう。今までキスマークなんて付けたことないのに。


「だいすき」


俺のどす黒い感情なんかお構いなしとばかりに、すうすうと茜は寝息を立てる。


欲しい言葉を茜に言わせるのは容易い。

でもそれでは満たされない。


どうやったら心を掴めるのかが、皆目見当もつかない。


「……うん」


頬に触れて頭を撫でて寝顔を眺めて。睡魔が来るまで飽きもせずに、俺は何をやってるんだろう。


この感情との付き合い方も、わからない。





◇◆◇





「相変わらず歪んでんな」

「何が」

「性格?性癖?」

「そう?SかMかで言ったらそりゃSだよ」

「ドが付くやつね」

「そうかな」

「天才の考えることはわからんな」


カウンター席の隣で、八木は俺に合わせたらしいカシオレを飲み、ガリガリと氷を噛み砕いた

八木は大学時代の悪友だ。気が合うのかわからないが、気まぐれに連絡を寄越して、不思議と今も交流がある数少ない人物だ。


「予定あるとか付き合い悪いと思ったらそっかー。毛色の違う子とダーツしてたって話題になってたけどさ」

「へえ」

「興味なさそうだな」


ポケットからタバコを出して、ライターをカチカチさせるが点かないらしい。

俺にタバコの先を向ける。


「火ちょうだい」

「持ってない」

「げ。マジか。えーお前も電子タバコー?オレあれ嫌いでさー」

「今、吸わない」


ヤツは固まった。


「え、あんなタバコの銘柄に拘ってた翠が!?」


手に持ったタバコをポロリと落とす。


「なになに?彼女にタバコ臭いの嫌いとか言われたわけ?」

「別に。」


喫煙所少なくて面倒になっていたのに加えて、茜が咳き込んでしまって可哀想だったのが決め手ではあった…だけに、否定も仕切れない。


「ふーーん?人畜無害みたいな顔してしれっと女持ち帰る翠が!オレみーちゃん狙ってたんだからな!」

「学生の頃?誰それ。金髪の子?」

「黒髪の子のキレイな子ね!ホント人に興味なさすぎ」


ニヤニヤしながら、オレも禁煙に付き合ってやるかー!と八木はタバコを箱に戻した。


「飲み会の帰り迎えなんて、昔の翠なら頼まれてもいかねぇよ」

「そう?」

「結婚とかすんの?」

「…さあ」

「えー!なになになになーに?」


ガシッと肩を組む八木。


すぐに暑苦しいと引き剥がした。


「これまで結婚なんて何のためにするの無駄でしょとか言ってたのに。前向きに検討しちゃうくらい大好きなわけ?へーえーー?」

「あーもーうるっせぇな帰れ」

「あの川嶋翠が!骨抜き!ギャハハハ!サイッコー!!」


多少なりとも…いや、かなり…骨抜きにされている自覚があるだけに、無言を貫くくらいしかできない。


「会わせてよ。紹介してよ大親友だよって」

「親友?誰が?」

「やぁーん!冷たーい!」

「気持ち悪ぃ声出すな」





◇◆◇




「茜」

「翠!ただいま!」


ワックスでセットしてもらって、メイクもしっかり施されている。

全体にレースがあしらわれた、ネイビーのタイトのワンピース。

大人っぽく艶っぽく、かっこいい。今日もさぞかし女子にモテてきたんだろうな。


いつもと違う雰囲気に、似合うじゃんと口をついて出かけて、隣にいる男の存在を思い出して飲み込んだ。


「どーもー」

「こんばんは!もしかして翠が今日会うって言ってた大学のお友達ですか?」

「そうでーす!翠の大親友の八木大介でーす!大きいに介で全部末広がりの名前でーす」

「え、めっちゃ縁起いい!」

「ちなみに誕生日は8月8日!」

「誕生日まで末広がり!」

「いいでしょー」


すごーいとノリのいい2人。何仲良くなってんだ。頭が痛い。


「あ、初めまして!槙田茜です!ええっと…」


チラリと俺の方を伺う茜。


…そういう気遣いいらないんだけど。


「俺の彼女」

「いやーまさかのかっこいい系!」

「…オイ」

「へー、翠がベタ惚れって聞いたから、守ってあげたくなる系かと思った」

「一目見たら帰るつったろ。帰れ」


マジマジと茜を見る八木。

尻に回し蹴りを入れるが、八木は動じない。

不躾な視線にも関わらず、少し困りながらも笑顔を崩さない茜。


「帰るぞ」

「え、でも」


痺れを切らして茜の肩を抱いて引き剥がす。


振り返らなくてもわかる八木のニヤニヤ顔にも、またねーなんて振り返ってのんきに八木に手を振る茜にも苛立つ。


こんなんじゃなかったんだよ。


「よかったの?八木くん。まだ翠と飲みたかったんじゃない?」

「いーよ、もう飲んできたから」

「んー、そっか。今度改めて挨拶させてね」


他人のために自分の予定調整したり、相手の予定を優先したり。


いちいち、困ってる人が目に付いたり、お人好しな茜ならこうするだろうなって気になって時には声をかけたり。


些細なことで苛立ったり。


…誰か1人を、独占したいと思ったり。







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