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同期の君が言うことには  作者: 卯月はる
気の合う同僚?
23/29

妬いてるの…?…なぁんて



付き合って1週間。


いつもの調子で夕飯を一緒に食べて、たまに飲んでいると、気付いたら翠の家に入り浸っている。完全に翠のペースだ。

翠の家が広くて居心地がいいのが悪い。


「そういやクリスマスどうする?」

「………あ。」


毛足の長いラグで、お気に入りのクッションを抱いてゴロゴロしていると、大きなビーズクッションに埋もれてスマホを見ていた翠が不意に口を開き、私は固まった。


「………予定がある?」

「ええっと、旅館で女子会の予定でして…」

「ふうん」

「あ、あのね、旦那さんが出張で寂しいって友達が言ってて、それなら女子会しようって話になってね!」

「へえ」

「2人部屋は空いてなくても6人部屋とかは空いてるから6人で、あの、その話になったの別れたばっかのときで幹事もやってて」


半目になってる翠の顔が怖い。


取り繕わなきゃと思うのに、余計なことばかり話している気がする。


「あっ、でも、幹事って言っても予約とかしただけだし、私だけキャンセルしても…えっと」


無言の翠を伺うも、翠ははーとゆっくり息を吐き出して、


「…いいけど別に。楽しみにしてたんでしょ、楽しんでくれば。」


諦めたような返事。


「あの、でも…」

「クリスマスに思い入れないし、茜が友達との約束優先なのも織り込み済み」


大きなクッションに背中を預けて足を組む翠。

あ、拗ねてる。可愛い。今言ったら怒らせそうだから言わないけど。


「あの、お土産買ってくるから」

「うん。…ちなみにさ」


無表情のまま問うた。


「年末年始の予定は?」

「え゛」


年越しのカウントダウンライブも初詣も、それぞれ大学や高校の頃の友達と行く予定だとモゴモゴ伝えると、またしてもふうんとつまらなそうな返事。


「あっ、ああ、あああの!でも実家の挨拶回りも2日だけだし、3日…4日にはこっち戻って来れるよ!仕事6日からだし、その…」

「いーよ無理しなくて。いつでも会えるんだし、地元で会える友達とか家族優先すれば」

「す…」

「つーか」


怒られているわけじゃないのに、私は翠の前で正座をして言葉を待つ。


「カウンドダウンの大学の頃の友達って、元カレもいるんじゃないの」

「う、うん。毎年同じメンバーで行っておりまして」

「ほう?」

「あ、会うのは久しぶりだし!」

「付き合ったばっかの今カレは放置しておいて、元カレと遊びに行くわけねえ。ふうん」


頬杖をついて口角を上げる翠に漸く失言だったと気付くも、時すでに遅し。


「え、あ、違!女友達もいるよ!2人じゃないし!」

「流石に2人なら行かせないけど」

「ああああのぉっ」

「そっかあ」


コツンとおでこを合わせて、間近で目が合う。


穏やかに見せて、機嫌が悪いことはわかる。それはそうだ。無神経だった。


なのに、こんなときでも見惚れちゃう…


「ええっと…翠、妬いてるの…?…なぁんて」

「当たり前でしょ」

「え」

「幸せになってほしい、これからも大好きな人、だっけ?」

「それは、その…っ」


あわあわと何も言えないでいるうちに、唇を奪われた。


「埋め合わせが楽しみだなあ」

「んん…っ」


やわらかい唇で、唇も舌もはむはむと喰まれる。


耳に指を這わされて、唇が離れたときには力が抜けて、翠にもたれかかっていた。


こんな、とろけるようなキスがあるのなんか、翠と付き合うまで知らなかった。


「あとハイこれ。クリスマス前うちに来るかわからないしあげとく」


それなのに翠は余裕で、私の目の前に紙袋を差し出す。


「えっ、えーーっ!」


翠が渡して来たのはデパコスのクリスマス限定の紙袋。


中身はクリスマス限定のオレンジとブラウンのアイシャドウとフェイスパウダー。大人可愛いポーチ付きだ。


「かっ可愛い!!」


興味はあったけど、敷居が高くて買えなかったコスメだ。だって、デパートのあのコーナー、キラキラしてるし…


女友達に付き合って行くことはあるけど、付き添いで店員のお姉さんと一緒に可愛い!と言う係だ。たまに私もメイクしてもらったりするが、自分でできる自信がなくて、買えずじまい。


「大好きな“アユミちゃん”に、お前に合いそうなの教えてもらった」

「ひゃあ!神棚に飾らなきゃ!」


しかもアユミちゃんが選んでくれたと!?泣いちゃう。嬉しい。使えるかな。私が使ってもいいのかな…


「すっ、翠わざわざこんな、男の人が行きにくいキラキラスペースに1人で行ったの?ネット?アユミちゃんと行ったの?」

「1人で行ったよ駅前のとこ。“アユミちゃん”には真紘に聞いてもらっただけ」

「そっそうなの!?」

「彼女にプレゼントなんですけどって言ったら普通に案内してくれるよ。そんなん店員さんだって慣れてるでしょ」


そう言われてみればそうかもだけど…それって…


「…なんだよ。言っとくけど、女に化粧品とかプレゼントするの初めてだからな。」


心を読んだかのように翠は付け加える。


「わ、私のためにわざわざ買いに行ってくれたんだ…?」

「そーだよ。たまに広告とか物欲しそうに見てるのに、買ってなさそうだから」

「わー!バレてた!?」

「君、自分が思ってるよりわかりやすいからね」

「えへへ」


顔がゆるんじゃう。


アユミちゃんチョイスももちろん嬉しいが、何より翠が私が喜ぶものを考えてくれたのが嬉しい。


聞いてないフリしてて、ほんとは私のことよーく見てる。


「翠、大好きー」

「うん」


ぶっきらぼうなわかりにくい優しさは前からだが、友達だったときよりずっと大事にしてくれているのがわかる。


いつから、こんなに大好きだったんだろう。

どこにこんな感情を留めておけたんだろう。


来年は、ちゃんとクリスマスの予定、空けとこう。


翠へのクリスマスプレゼント、何にしようかな、何が一番喜んでくれるかな。




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