う、自惚れちゃうよ?
ピピピピピ
モゾモゾとスマホを探す。
いつもよりふかふかで手触りのいい布団。
なんか動きづらい。ーーー動きづらい??
パチリと目を開けると、キレーなお顔が飛び込んでくる。
あれ。
「!!!」
昨日!翠のところにきてそのまま…
思い出して、頬が熱くなる。
翠は、口では何て言ってもやっぱり優しかった。
体を強張らせれば宥めるように手を握って、ぎゅっと目を瞑れば落ち着くように触れるだけのキスをくれた。
きっと翠にしたらとっても時間をかけてくれて、私のペースに合わせてくれたんだと思う。
それから、上気した頬と、汗ばんだ肌、余裕がない翠の…
あんなの!いくら泥酔してたって、覚えてないわけない!
わあああ!
叫びたくなるのだけはどうにか抑えて、起き上がろうとすると、後ろから伸びてきた腕にベッドへ引き戻された。
「おはよ」
抱きしめて頭を撫でられる。
照れもしないし、手慣れてて、翠ってやっぱりモテるんだなって。
「体つらくない?」
「う、うん…」
見たこともない翠の昔の彼女に嫉妬しちゃう。
あれ…過去、だよね…?
「…何、その顔」
「翠、優しかったから…彼女にはこんなに優しいんだな…って…」
「は?」
「だって…翠、モテるでしょ…」
女に困ってないって、さらっと言えるくらい。
なのに、翠はアホかと呆れ声。
「茜だからでしょ」
「え」
「茜がセックス嫌いになったら嫌だから、時間かけて優しくしたんでしょ。」
ちらりと翠の顔を伺うと、キレーな顔を不機嫌そうに歪めている。
「…私、だから…?」
「そーだよ。」
「そーなの?」
「…はぁ。遊びなら俺が気持ちよければなんでもいいし、誰でもいいなら告白の返事待つなんてまどろっこしいことしてねぇんだよ」
吐き捨てるように言うけど。それって。
いいように解釈しちゃうよ?
「う、自惚れちゃうよ?」
「どーぞ」
「…私は特別ってこと?…かな…」
「…言わなくてもわかれよ。鈍感。」
その不機嫌そうなのは、照れ、なの?
ーーー外見とか人の目とかどーーでもいいくらい好きで好きでたまらないんだろうなーって言ったのぉー
翠も、ちょっとはこうやってくっついてるの、くすぐったいなって思ってくれてるってことでいいの?
「い、言わなきゃわかんない。」
「…努力する」
「え、えへへ」
翠の顔も見てたかったけど、私の方が耐えられなくて、翠にぎゅーっとして誤魔化した。
「あ!今から帰って会社間に合うかな?」
翠は離れようとした私を胸に抱きしめ直す。
「シャワー浴びて、一緒に出勤すればいいじゃん」
そう翠は言うが。
そしたら服もそのままで出勤だ。下着はコンビニで買えるし、替えのシャツはロッカーにある。ある、が。
「そ、そしたら、まるで翠のとこに泊まりましたって言ってるみたいじゃない…」
そんなあからさまなの、恥ずかしい。
「…それ、今更誰も驚かないからな?」
「え」
「せいぜい真紘くらいだよ」
「ええ」
「みんな付き合ってると思ってるから」
「そ、そうなの…?」
「…むしろ何だと思ってたの?」
「…私と翠で恋愛はありえないから、仲良い同期だと思われて、からかわれもしないんだと…」
「ほーんと、バカだよねえ。色恋沙汰にはみんなうるさいのに、そんなわけないでしょ」
「う…」
翠の胸にすり寄ると、呆れた口調とは裏腹に、優しく抱きしめてくれる。
「そろそろ起きなきゃ…」
離れるのが寂しくて翠の背中に腕を回すと、翠はキスをくれた。
「こっ、恋人っぽい…!」
「………恋人だからね?」
翠の腕の中にいるのが心地よくて、離れがたくなる。
友達に戻れないみたいな不安はもうなくて、翠をもっと独り占めしたくなっていた。
◇◆◇
翠の言う通り、一緒に出社したところで揶揄われることもなく、同僚には普通に挨拶された。
真紘ですら「やっと付き合ったんだねー」の一言だった。
アユミちゃんにも、いつも見てたSNSからお礼のDMを送ると、すぐに返信がきた。
喜んでくれて、またお茶することになった。
いつの間に撮ったのか、昨日のパンケーキ食べてるときのアユミちゃんの自撮り写真もめちゃくちゃ可愛かった。
野原さんは、「まだ付き合ってなかったみたいだったからぁ、イケると思ったんだけどなー」と唇を尖らせていた。
「ってか、槙田さん鈍感すぎだよねー?あたしの意地悪も素直に聞いちゃうし。逆にこっちも罪悪感っていうか。」
「え、あの」
「でもそれならよかったー。川嶋くんと付き合えなかった上、邪魔したせいで槙田さんとも拗れたまんまじゃ後味悪いのよ。」
「はあ…」
「じゃ、あたしは謝ったからね!」
「はい…?」
あんまり全く全然、謝られた感じはしないが、野原さんはそれからも普通に接してくれた。むしろ今までより気に入られた。
よくわからないが、まあいいか、ふわふわ美女に好かれている分には。
それを翠に言うと、翠は遠い目をしていた。