表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同期の君が言うことには  作者: 卯月はる
気の合う同僚?
16/29

仲直りしたくて。


髪を梳く感覚で目が覚めた。


「やっと起きた。」

「すい…?」


眠い目をこする。ここはどこ。

ああ、翠の部屋か。


ベッドに寝たまま肘をついて私を見下ろす翠にぼんやり思い返す。

いろいろ買い込んで戻ったとき、翠は寝息を立てて寝ていた。


相変わらずキレーなご尊顔で。


青白い頬にかかる、髪の毛を耳にかける。


普段はメガネで隠れているまつ毛が綺麗に見える。やわらかそうな唇は、いつもより血色悪くて。


すうすうと規則正しい寝息を立てている翠に見惚れているうちに、睡魔に襲われたところまで思い出した。



「おはよ」

「わ、私寝てた!?」


床に座ったままベッドに突っ伏して眠っていたらしい。立ち上がると肩から毛布が落ちた。


「えっと…すぐ食べれるもの買ってきたから。」

「ありがとう。」

「ええっと、元気なら、私、帰ろうかな…?」


翠は起き上がってベッドに腰掛け、私を見上げる。


「ここまで来ておいて?」


伸ばされた手が、スルリと私の頬に触れる。


「…翠、と、この前のこと、ちゃんと話したくて。その、体調よくなったら時間…」

「寝たから調子いいよ」


それで?と、目で先を促される。


「えっと、翠と…仲直りしたくて。」

「ふうん」


スッと細められる目に怖気付きそうになる。


「あの、でも、翠が私のこと友達と思ってないのもわかったし、憶えてないけど何かしたなら謝りたくて、嫌なとこあるなら…」

「ほーんと、なんにもわかってなくて腹立つ」


二の腕を掴まれたかと思うと、視界が反転する。


「ぎゃ」


目の前に翠のキレーな顔。その後ろには、天井。


「えっ」

「こんなとこまでノコノコついてきて、何されても文句言えねぇぞ」

「…なっ…?」


手はベッドに縫い付けられて、身動きが取れない。


華奢に見えても、翠は男の人で、きっと翠が本気で何かをしようとしたら、私は敵わないんだろう。


レンズ越しではなく、私を見つめる黒い瞳に囚われた。


鋭い瞳は、獲物を見つけた鷹のそれで。


「好きだよ、茜。」


ーーーすき?


翠の匂いに包まれて、クラクラする。


頭の中に靄がかかったみたいに、何も考えられなくて、翠の瞳に囚われて見惚れる。


「わ、わたし、も」

「友達としてとか言ったら怒るからな、この鈍感」


翠は何を言っているのだ。


私だって翠が好きだ。大好きだ。でも。それは。だって。翠は。


顔の横に肘をついて、視線を逸らすことも許されない。

触れ合った体から感じる翠の体温を、私は知っている。


怖がる私を宥めて、抱きしめてくれた腕を。酔った私を抱き止めてくれた胸を。


ああ、なんでそんなの今思い出してるんだろう。


「恋愛対象として、好き。わかる?」


わかる。わからない。どういうこと?


「もう友達は無理だから。俺限界」


唇の触れそうな距離で、身動きが取れない。


この前みたいに、このまま抱きしめてくれたらいいのに。


ーーー違う、そうじゃなくて。


恋愛?好き?翠が?


言葉を咀嚼できずに、頭の中をぐるぐる回る。


「キスもセックスもしたいし、友達の好きなら要らない」

「な、っ!?」


混乱が巻き起こる頭の中、カチリと言葉の意味を理解した。

頬が熱くなる。


警戒心持てって、そういう…


「は、はなして…!」


我にかえって腕に力を入れても足をバタつかせても、絡め取られる。身動きが取れない。

翠はそのまま私を抱きしめるみたいにして、私の耳元で囁く。


「いいね、その顔。もっと俺のこと意識してよ」


でも、翠に限って。だって私は男友達みたいなもので。…え?


「す、すい」


名前を呼んだ声は、掠れて消え入りそうに小さい。


今私をこうしているのは翠なのに、助けを求めるのも翠しかいないなんて。


「その気になったら男は力で押さえ込めんの。」


フッと拘束が解かれた。


起き上がって後ずさって翠から離れる。


頬が熱い。心臓が今さらドキドキと鳴り始めた。


「わかった?」


はくはくと、言葉は何も出てこなくて、私はただ無言で何度も頷いた。


何が起こった?


私はいっぱいいっぱいなのに、翠はベッドの上であぐらをかいて満足気。ずるい。


「早く付き合うって言ってね。俺、気長くないからさ」

「な、んで、付き合う前提なの」


絞り出した声は、泣いてるみたいに震えてた。

翠はニッと口角を上げただけだった。


「泊まって行く?何もしない自信はないけど」


不敵な笑みに、私はふるふると首を横に振って、翠から距離を取った。

荷物を持ってフラフラした足取りで玄関へ向かうと、翠も玄関まで見送ってくれる。


「月曜は弁当持って来んなよ」


くしゃくしゃと髪をかき混ぜて、念を押した。


翠の家から、駅までをとぼとぼ歩く。


「……え?」







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ