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同期の君が言うことには  作者: 卯月はる
気の合う同僚?
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額面通り受け取るか?普通。-side翠-


あー面倒くさい。こういうの。


人にペースを乱されるのも、振り回されるのも、感情を揺さぶられるのも。


“友達だと思ったことない”を額面通り受け取るか?普通。あの流れで?


そうだよな、受け取るよな、そのまま。だって茜だし。

受け流すわけでもなく、真っ向から受け止めて傷付いて。


それがわかってたのに、その表情に見入って、咄嗟に訂正できなかった。


涙を堪えたあのときの顔が脳裏に焼き付いて離れない。

俺に向けた涙に満足する気持ちと、罪悪感で脳が焼き切れそうになる感覚。


感情の振れ幅に吐きそうになる。


総務の野原静が、茜といないのをこれ幸いと話しかけに来て、告白もされたが今付き合うのが怠くてお断りした。


職場内は面倒だから避けてただけで、腹の探り合いもできそうで遊び相手としたらちょうどいい筈なんだけど。

ワンナイトでもいいやと投げやりになったところで、誰にも興味持てなくて諦めた。


別にさぁ、誰でもいいでしょ、愉しめれば。あわよくば好みの子。それくらい。そうだったでしょ。


時間があると余計なことを考えるから無心で仕事した。

年末の忙しさは好都合だった。ついでに後回しにしていた作業も一気に片付けよう。手間なだけで、無心で作業するにはもってこいだ。

それでも時折襲い来る、何やってんだろうという虚無感。

パタリと来なくなった茜に、どうしたのかと訊かれたのは一度や二度ではない。


プライベートの話を全くしない主義の直属の上司にまで、


「川嶋くん…槙田さんと何かあった…?」


と訊かれる始末。


毎日のように連れ立って昼飯に行ってたんだから当たり前か。

仕事忙しいみたいですと言ってはみたものの、説得力はまるでない。


茜は忙しくても顔を見せに来ていたし、ついでに方々からお菓子をもらって餌付けされていた。


今思うと、あれだけの存在感で別部署に来ても怒られず、仕事に支障を来さず、むしろ歓迎されていたのってすごいことだな。


茜は昼にここに来た時、ちょうどいいと頼まれた雑用は笑顔で引き受けていた。

重いものを運ぶ人がいれば手伝い、高いところのものが取れない女子社員がいれば取ってあげ、シュレッダーのゴミをぶちまけた後輩がいれば「私も昔やったー」などと言いながら一緒に片付けて。

若干女子贔屓ではあるものの同性の親しさの範囲内で、老若男女問わず愛想よく親切で態度も変えない。


そういうところなんだろう。


無駄だと思っていたそれらは損でもなんでもなかったってことか。


そんなこと、今頃気づいて何になる?


入社当初の予定通り、淡々と仕事を仕事と割り切ってそれなりにこなして、副業を軌道に乗せて独立する。

いや、独立しようと思えばいつでもできる。今でもそれなりにやっているし。


何をいつまでも思い留まっているんだ。

考えるだけ無駄だろう、こういうのは。


「翠、お昼食べない?マキちゃんはいないけど」

「あー…うん」

「何処行く?何食べたい?」

「何処でもいい。決めて」


昼を誘いに来たのが真紘で、ガッカリしている自分がいる。やってらんない。


昼飯なんてゼリーとかプロテインバーとかでいいのだ元々は。食べなくてもいい。眠くなるし。混んでる昼時に外に行って並ぶのも億劫だし、いいことない。


「マキちゃんが目の前で美味しそうに食べてくれないと、午後やる気出ないねー?」

「何で。別に」


目の前で大盛りの定食を食べながら、真紘はからかうような言い方。


「もう、どうしたのさ、ほんとに。」

「さあ。喧嘩?」

「どうせ翠が言いすぎたんでしょ。」

「………」

「そろそろ限界なんじゃないの?早く謝っちゃいなよね。マキちゃんも空元気って感じだし見てらんないよ」

「…考えとく」


関係を修復しようとは思わなかった。

だってたぶん、確実に、また傷付ける。


それで心が騒つくのもごめんだ。


代わりのオトモダチならいくらでもいるだろ。振り回さないでくれ。




◇◆◇




「僕、槙田さんに告白しました」


昼休み、周りに人がいないタイミングで、後藤が話しかけてきた。

チラリとだけ後藤を見て、俺はパソコンに向き直る。


「……それで?」

「報告だけです」

「…はあ」

「川嶋さん、槙田さんと付き合ってないって教えてくれたので、言わなきゃフェアじゃないかなって」


スポーツでもないんだ。フェアも何もない。勝つためにありとあらゆる手を打つ。

付き合う以外に価値はないだろう。


「敵に塩送るなんてバカなんじゃねぇの」

「敵って認めてくれるんですね!」


そんなこと言ってない。

言ってないけど、こういう奴の方がいいよ。付き合うなら。


俺と違ってまっすぐ思ったこと伝えてくれるだろうからさ。捻くれた言い方で誤解させることもない。


後藤のその宣言から、茜が後藤といるところをよく見かけるようになった。


楽しそうだしいいんじゃない。俺関係ないし。

心の中で呟いてみたところで、目で追ってしまう。気になることには変わりない。


あ、ヤバい、目眩がする。ギリギリ耐えれるけど。


元々寝付きがよくないし、どうせ寝れないならと深夜にいろいろやったツケだ。

眠気は然程ないが、寝ないと体が限界のようだ。


金曜日でよかった。


寝て、今日やろうと思ってたことは明日に回そう。


「ちょっと翠!?」


久しぶりに定時で上がるかと会社を出たところで、腕を掴まれた。


心配そうに俺を見る一重瞼、下がった眉尻、薄く開かれた唇。


今までの努力はどこへやら、一気に茜に意識を引き戻す。


「調子悪いの!?」


何なに。何でそんな普通なの。


「…まあ、ちょっと。」

「ちょっとじゃないよ!何フラフラになりながら仕事してんの!」

「ただの寝不そ…」

「もう、早く帰るよ」


しばらく口利いてなかったのに、まるごとなかったように気にかけて、手を引く。


あたたかい指がしっかり俺の手に絡んで強引に、でも俺のペースを気にかけながら捕まえたタクシーに引っ張り込んだ。


何やってんの、せっかく俺から離れてやったのに。


後藤でも誰でもいい人いるでしょ、体調不良だからってお人好しすぎ。


苛立ちをぶつけても、怖がるどころか俺の体調しか気にしてなくて。


もうそんなの、敵うわけないじゃん。


降参。全面降伏。


誰にもあげたくない。


ーーーもう、逃してあげられない。





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