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同期の君が言うことには  作者: 卯月はる
気の合う同僚?
12/29

どういう感情?-side翠-


地方の社員も含めて50人ほどの新入社員の集合研修で、同じ班になった彼女。


一瞬男かと思った。

髪は短くて精悍な顔立ち。爽やかな好青年って感じで。

背は高いが、線は細くて、声も男にしては高い。


ああ、体育会系女子ねって。


「川嶋くん、これわかる?」


研修なんか役に立たないんだから適当にやればいいのに、彼女は課題もグループ発表もキッチリまじめにやろうとする。


「…これ、全部逆になってるけど」

「ええ!?嘘!!どこから!?」

「ここ」

「わー直す!ありがとう!!」


その割に、挨拶と笑顔以外はポンコツだった。発表なんかは率先してやってくれるから、そこはいいけど。

暑苦しくてめんどくさい。やる気のある無能は一番嫌いだ。

まあ、研修さえ乗り切れば部署も違うし関わらなければいいか。


最初は恐る恐る話しかけてきたが、面倒くさくて適当に返していたら気に入られたらしい。


兄と弟がいるらしく、ガサツで女扱いされてない。男は接しやすいらしく、女は女でカッコイイなんて言っている。

愛想よく誰にでも好かれるキャラクター。

よく食べよく笑う。笑ったときになくなる細い目と覗く白い八重歯。

喜怒哀楽が激しく、素直で裏表がない。


面倒見がよく頼まれたことは断れないお人好し。


…面倒くさ…


「ねね、研修お疲れ様ってことで、飲みに行こって話になってるんだけど、どう?」

「は」

「川嶋くんも一緒に飲みたい」


猫撫で声で誘うならわかるが、純真なストレート。どういう感情なの、それ。

いいだろ、別に俺に構わなくて。

仲良しごっこしに来てるわけじゃない。


…それでも行くって言ったのは、他の可愛い女が誘ってきたから。


「あはは、飲み過ぎたかもー」


なのに、何故。


「バカなの?」

「えへへ、だって川嶋くん来てくれて嬉しかったから」


ヨタヨタ歩く茜の様子を見ながら、駅まで歩く。


何で俺が…


「槙田さんのために来たわけじゃない」

「うん。でも川嶋くんも一緒に飲みたかったの」

「あっそ」

「みんな楽しかったって言ってくれて嬉しいね」


上機嫌でのんびり歩く茜。


笑うと細い目がもっと細くなって、薄い唇から八重歯が覗く。


「わかんない、その感覚」

「そう?」

「仕事だし、仲良くする必要ない。どうせほとんど地方の奴らだし」

「えーでも、一緒に仕事する仲間なんだから、楽しい方がいいなあ。転勤で同じ部署になるかもだし!」

「殆どがこれっきりだろ。親睦深めて何になる」


歩幅を合わせるのにもイライラして、言い過ぎた。

これでいいという気持ちと、流石にキツかったかと反省する気持ちが混ざる。


でも茜は手を口に当てて笑っている。


「ふふふ」

「…何」

「川嶋くんがたくさん喋ってるー」

「酔っ払いに付き合ってやってんだろ」

「あはは、こっちが素?」


あーあ。

経験上クールで物腰やわらかくやってれば当たり障りなく業務はできるし、会社では気配を消してなるべく周りと関わらずに生きる予定が。


コイツに知られたところで、どうとでもなるから別にいいが。


ちょっと酔ってるのかもしれない。


「そのキレーな顔でクールぶってるよりいいね」

「冷たいよ」

「うん、そんな感じ。研修のときのヤサシーのもいいけど、こっちの方が話しやすくて好きー」

「変なヤツ」

「えへへ、そうー?」

「褒めてねぇからな」

「ありがと!」

「聞けよ」


聞かない茜の短い髪をグシャグシャとかき混ぜると、きゃーきゃーされるがままだった。


その髪のまま帰ろうとするから、思わず引き止めて整えてやった。

イラっとして思ったことがそのまま口に出ても、相槌が適当でも、怒らないし凹みもしない。

キャラ作りもどうでもよくなって、ヘラヘラしている茜はかえって居心地がよくなった。


「翠ー!ランチ行こ!先輩に美味しい包み焼きハンバーグのお店教えてもらったよ」


ランチタイムでフロアがざわつく中、ひょこんとうちのフロアに入ってきた茜。

システム部や経理部のおじさんからお姉さんまで、茜に声をかけて行く。目立つから本気でやめてほしい。


「…はあ。混んでるの嫌なんだけど」

「え、じゃあ1時間ズラす?あっでも私1時半から会議だから今行かないと…」

「……わーかったよ。」

「やったぁ!」


こうやって、同じ支店の茜と真紘ともう2人の同期と、お昼を食べに行くことが多くなった。


他の2人は1、2年で辞めたが。


辞める辞めない言ってる同期なんか放っておけばいいのに、茜が放っておける筈もなく。

グチや励ましなどの、当初は関わる予定のなかった同期とのやりとりに、図らずも巻き込まれていった。


茜と真紘は仲良くも切磋琢磨して頑張っている。

営業成績は真紘が上のようだが、長い付き合いのクライアントのフォローは茜が重宝されているらしい。

営業向いてそうだもんね、君たち。


泣きつかれて、パソコンの使い方と資料の作り方は休日に自宅で教えてやった。業務外だ。

もちろん何かが起こることもなく、焼肉は奢らせた。


これだけつるんでいれば、当然付き合っているんだろうという目で見られ、否定したところで、だ。


真紘みたいな身近な人こそ付き合っていないと知っているが、社内外の大半は付き合ってると思っていることだろう。


甘んじて受け入れていたのは、社内の女避けにちょうどいいやと思ったのと、懐かれて嫌な気がしなくなっていたから。




◇◆◇




「彼氏?うん、いるよー。大学の部活の人」


同期に聞かれた茜は、えへへと照れながら、聞かれるがまま彼氏の話をしていた。

そんなはにかんだ表情できるんだと、何故かずっと頭にこびりついている。


季節が数回巡って、当たり前に隣にいるようになった頃もそう。


「あの映画よかったー泣いちゃった。あー思い出し泣きしそ」

「もう見てきたんだ」

「うん、彼氏が好きで、これは毎回一緒に見てるんだー」

「…ふうん」


胸の辺りが騒つ…いやいやいや、待て。


茜に、大学の頃から付き合っている彼氏がいるのは知っていた。

男より、アイドルやら飲み屋の店員さんやら可愛い女子の話しかしないから、存在を忘れていただけで。忘れた頃にこうやって出てくる。


そんな付かず離れずの同期を続けること数年。

休日に連絡が来たと思ったら彼氏に振られたなんて話し始める茜。


勘繰るじゃん、そんなの。相手が茜でも。


「慰めてもらいにきたの?」

「わ、顎クイってこんな感じなんだ!?やってって言われたことはあるけど、やられたのは初ー!」


なのに、迫ってみたところで照れることなく、純真な瞳で躱される。


これ、意図がわかってて躱したわけじゃなく、素だなってわかるくらい。

俺のことなんて異性と思ってなくて、異性と思われないことに慣れている。


鈍感さとお人好しっぷりに苛立った。


「好きな人ができたんだって。彼には幸せになってほしいなーって思ってね」

「…何だそれ」

「今までもこれからも、大切な人なんだよねぇ彼は。でも未練はないんだよ。門出を祝って?飲みたい気分だったというか」


好きな人の幸せを祈る?どういう感情?


「お人好しめ。だから損ばっかすんだ」

「そ、損はしてない…!」


ぷーと頬を膨らます茜。


損してるだろ、いっぱい。仕事押し付けられて、雑用も手伝わされて、飲み会の幹事とか出欠の確認とかやらされて、挙句彼氏にもさ。


「…そんなに好きだったんだ」

「うん。大好き。今も。これからも。」


はにかんだ、そんな女の子みたいな顔俺にはしないじゃん。


あ、なんか、俺って本当にただの友達なのねって。


知ってた。知ってたさ。そんなの。

俺に気のある同僚との仲を簡単に取り持とうとするくらいだ。


一気に脱力した。


茜に何か期待していたつもりはなかったのに。


…最近仕事と会社の飲み会ばかりで色恋沙汰はとんとなかったからだ。


茜でもいいってことは誰でもいいってことだ。彼女作ろ。






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