表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蹴撃の黒メイデン  作者: 雪銀かいと@「演/媛もたけなわ!」電子コミックサイトで商業連載中
第三章 連戦〈restless battle〉

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/48

第三章-4

       4


 羽織袴姿の士族然とした男が、日本刀を袈裟懸けの軌道で振った。クウガは軽快な足取りで横に跳ぶ。最小限の動きで斬撃を躱し、左ジャブを打った。

 力感のない様子見のような拳だ。しかし、顎に食らった男は後方へすっ飛び、五、六人を巻き込んで五メートル以上先で止まった。大した感慨もない様子のクウガは、油断のない表情で次の敵を見据える。

 四条大橋の上には、護国輔翼会の手の者と思しき集団がいた。その数は優に百を超えている。クウガとアキナを視認すると襲いかかってきて、群衆は蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていた。

 クウガとアキナは、橋の幅方向を三分割する点を中心に戦っており、蓮はその後ろで控えている形だった。今ところ、二人は一兵たりとも後方に通していなかった。

「ふうむ、さすがは奇跡の英雄たちの子供ってとこやな。うち、困ってしまいますなあ。それならこんな趣向はいかがですやろ」

 姿がないにも拘わらず、葵依の暢気な声が響きわたった。突如、敵はいっせいに橋の両端に移動して中央を空けた。

 すると後ろから、警察に似た装いの二十人ほどの集団が現れた。二列になっており、前の者はしゃがんで後ろの者は起立していた。皆、手には拳銃を握り込んでおり、クウガたちに照準を合わせていた。

 クウガはすぐさま足下に黒球を出現させた。すると拳銃の集団は、皆一様に不自然に右足を前に滑らせた。体勢を崩して発砲も叶わない。

(白黒自在で右の靴を引っ張ってるのか? 何でもありだな)

 蓮が考えを巡らしていると、ダンッ! アキナは地を蹴って拳銃の集団に向かっていった。軽快な挙動で、一人また一人と蹴撃で意識を刈り取っていく。

 始まって一分も経っていないが、戦闘は早くも掃討戦の様相を呈していた。世界大戦で証明されたとおり、クウガたちにとっては一般部隊など物の数ではない様子だった。

 蓮は、またしても観戦だけになりそうだった。

(俺にもできることがあるはず)と蓮が必死で考えていると、ぞわりと背中に嫌な感覚が生じた。

 直感を信じて、蓮は左方に跳んだ。すると一瞬前まで蓮のいた場所を刺突が通り抜けた。すぐに起き上がった蓮は、攻撃の主に目を遣った。

 太い眉と酷薄な瞳を持つ男だった。歳は三十代前半か。こげ茶色の長靴に黄土色の軍服と帽子を身につけている。白い手袋をつけた右手にはサーベルを握っている。

「非国民の子息に死を与えん!」

 高らかに叫ぶと同時、男は再び突撃してきた。

 だが蓮は不思議と落ち着いていた。意識は、冴えているようなぼんやりしているような不思議な感じだった。

「しまった、蓮くん!」アキナの悲痛な絶叫も、どこか遠くから響くように思える。

 サーベルの先端が迫る。だが遅い。蓮は左腕を上げてくると、上体をわずかに傾けた。そのまま腕でサーベルの刀身を捉え、軌道を微妙にそらした。

 男の非情な顔が驚愕に歪んだ。蓮は即刻、男に密着。牛舌掌を形作り、手の甲で男の頬を打ちつけた。

 蓮の予想を超えた勢いで、男はすっとんだ。橋の欄干にぶち当たってようやく止まる。くたりと首を下ろし、気絶したのか、男は動かなくなった。

(──俺、軍人を倒しちまった。急に頭が超高速で回り始めて、勝手に体が動いて、八卦掌が自然に出て。……どうなってんだ?)

 蓮は自らの両手を注視しつつ、思考に耽っていた。やがて敵を片付けた二人が小走りで接近してくる。

「アキナ、探知だ」クウガが手短に告げると「うん」。アキナはふっと目を閉じた。一秒、二秒。やがてゆっくりと瞼を開いた。

「間違いない、超念武(サイコヴェイラー)だよ。まあでも壱次元(サイコワン)ってとこで、私たちと比べたらだいぶ小さな力ではあるけどね」

 アキナは早口で告げた。口調と表情からは、嬉しさと驚きの両方が読み取れた。

「ってごめんごめん。蓮くん初耳間違いなしの専門用語を使っちゃったね。超念武(サイコヴェイラー)の力はね、弱い順に壱次元(サイコワン)弐次元(サイコツー)参次元(サイコスリー)肆次元(サイコフォー)伍次元(サイコファイブ)陸次元(サイコシックス)超次元(サイコセブン)ってランクがあるの。蓮くんは、ごめんだけど最低の壱次元サイコワン

 一転、アキナは申し訳なさそうな面持ちを浮かべた。

「いや、謝る必要はないけどさ。アキナたちはどれなんだ?」

「私たちは二人とも肆次元(サイコフォー)だよ」

 思わず問うた蓮に、アキナはすらすらと答えた。

(アキナたちで七段階中の四? 七の奴はどんだけ強いんだ? 冗談抜きで世界を滅ぼせるんじゃないのか?)

 蓮は一人、心中で戦慄していた。

「またしても後天性の超念武(サイコヴェイラー)遣いが現れた? 彼らの共通の事項は何だ? ……規則性がなさ過ぎて、原因が究明できん」

 顎に手を遣ったクウガは、真剣な語調で呟いた。

 蓮は呼吸を整えて、二人に真摯な視線を向ける。

「これも同じだよ。あれこれ考えたって仕方ない。大事なのは俺にも超常の力が使えるってことと、俺はもうアキナたちの保護対象じゃないってことだろ。お願いだよ、俺も戦力に組み込んでくれ」

 静かな決意を口に出した。うんうんと頷くアキナは幸せそうだったが、クウガは依然として悩むかのような複雑な面持ちだった。

「──ってアキナ。なんだ、それ。なんか身体から出てないか?」と問い掛けた。

「私?」不思議そうな調子で答えると、アキナは自分の全身をきょろきょろと見渡し始めた。クウガもアキナに注目し始めるが、合点がいかない面持ちである。

「うーん、よくわからないな。蓮くん、君にはいったい何が見えてるって言うのさ?」

 顔を上げたアキナは、きょとんとした様で問うてきた。隣ではクウガが訝しげな視線を蓮に向けてきていた。

(すごく小さな粒が無数にアキナの周囲を行き来してるんだけど。二人には、見えてないのか。……どうなってんだ?)

 蓮は混乱を加速させるが、「変なことを言ってごめん。気にしないで先に進もう」と端的に返答した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ