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33■救出作戦


「ふせっち、終わったか?」


 いつの間にか、むっちゃんが近くに来ていた。


「ああ」

「そいつらのことが気になるか?」


 俺が灰にしていった子供のゾンビのことを言っているのだろう。


「むっちゃんは知っているのか?」

「グールの奴らは、強力な病原体を所持しているという噂だ。通常なら50代以上しか感染しないと言われるが、特殊に処理された病原体を強制的に体内に注入することで若年層でもゾンビ化するとか」

「……」


 言葉が出てこない。物理防御の魔法かけてなかったら、どんなに強かろうがゾンビ化するってことだな。


「奴ら人間を食べるっていってたな。ゾンビなんていくらでもいるのに、グールはどうして人間を家畜化するんだ?」

「奴らはグルメなんだとよ。年寄りの肉より、若い奴の肉が食いたいそうだ」


 なるほどな。それで家畜化して、稀少な若い肉を確保しているわけか。


「それよりふせっち。時間がない。ゾンビ化は感染して24時間で起きる。チカホがさらわれてそろそろ20時間は経つんだ」

「わかった。急ごう!」


 小春たちのところに戻ると、俺たちはチカホさんがいると思われるグールの拠点へと向かう。


 しばらく歩くと、小春と道世が反応を示した。


「先輩」

「主」


 同時に二人の顔がこちらに向く。


「どうした?」

「わたしたちにもたぶん、チカホさんの位置がわかります」

「同じく。チカホさまはたぶん、この先の道を左に曲がった先にいると思われます」


 これでチカホって女性も、小春たちと同じ能力を持っていることになる。そして、彼女からも俺の大切なアイテムを取り戻すことができるのかもしれない。


 俺たちは慎重に進みながら、曲がり角の手前で止まる。そして、むっちゃんから借りた双眼鏡で道路の先を見る。


 そこにあったのは芸術的なオブジェ……ではなく、遺体を切り刻んで玩具のように繋げた世にもおぞましいオブジェだった。


 普通の神経では作れないような狂気じみたもの。


 そのオブジェは、鉄柵の前に置かれている。それがいくつも並んでいた。


「あった。入り口はあそこか」


 そこは元々は公園のような場所。中にはキャンプ用のテントがいくつも張られている。


「オレにも見せてくれ」


 むっちゃんに双眼鏡を返す。ただ「冷静になれよ」と言葉を付け加えた。


 彼は双眼鏡で拠点を眺めながら、怒りに震えている。そりゃそうだな。大事なカノジョをさらった連中の拠点なのだから。


 部外者の俺は、そこそこ冷静でいられた。ゆえに状況を把握し、現状を分析するべきだろう。


「小春。グリちゃんに索敵させて、拠点内にいる敵の人数を教えてくれ」


 彼女がテイムしたグリフォンで上空から偵察すれば、中のだいたいの様子が把握できるはずだ。


「わかりました。先輩」

「小春と道世とむっちゃんは、ここで待機な。むっちゃん、先走るなよ!」


 タイムリミットが迫っているから独断専行しないか心配だ。


「ふせっち、わかってるって。チカホを助けるためなんだから、おまえに従うよ」


 小春が問いかけてくる。


「先輩はどうするんですか?」

「このビルの屋上にのぼって、拠点の構造を確かめて戦略を練る」


 こちらは4名で、あちらは多数。魔法があるから力技で攻めても勝つのは簡単だが、今回は人質救出が最優先事項だからな。


「なるほど、さすが主です」


 道世が尊敬したような眼差しで俺を持ち上げてくる。


「そこまで褒めんでもいい」


 いちおう釘は刺しておく。必要以上に褒め讃えられてもウザいだけだ。


「むっちゃん。もう一回双眼鏡を貸してくれ」

「ああ」


 ビルに入り、途中階にいたゾンビをサクッと倒して屋上に侵入する。そこで、グールの拠点探る。


 入り口は東西南北それぞれにあるが、鉄柵がない西側の方が入りやすいかな。


 たぶん、その分警備も厚いだろう。


 ゾンビ化していない人間は檻の中か? 捕まっているのが十数人か。鉄柵で覆われた南東付近にいる。


 拠点の中心あたりには焚き火台があって、大きな寸胴鍋を火にかけて何かを調理しているようだ。


 よく見ると、鍋からは人間の足が出ている。……マジかよ。話に聞いてはいたが、実際に目にするとなんともいえない気分になる。


 それは恐怖というよりも生理的嫌悪感だ。


 心を落ち着かせると、さらに偵察を続ける。


「……!」


 一瞬、どこかからの視線を感じた。


 双眼鏡で周りを見渡すも、その原因は見つからない。


「気のせいか?」


 そんな独り言を呟きながら、拠点の構造を頭に入れる。


 よし、なんとかなりそうだ。


 俺はむっちゃんの居るところに戻ると、小春に敵の人数を聞く。


「グリちゃんからの報告は?」

「グールらしき白い髪の人間が10名。ゾンビが20人くらい。檻の中に入っている人間が15名です」

「テントの中は?」

「テントの中も含めてです。グリちゃんは赤外線探知ができるので」

「中の人物がゾンビか人間かの判断はどうやってるんだ?」

「内部の人物の体温の差だそうです。ゾンビは人間よりも冷たく、グールはより高温みたいですね」


 それは凄いな。


「上出来だ!」


 彼女にそう言うと、先ほどの屋上から見た拠点の構造と合わせて、作戦を頭の中で組み立てる。


 味方は俺を含めて4名。それぞれの能力を加味して二部隊に分ければいいな。


 俺は、作戦を告げる。


「むっちゃんと道世は、北側の入り口から侵入。陽動部隊として、奴らをかき回してくれ。いちおう、二人には防御魔法はかけておく」

「おう!」

「御意!」

「道世が遠距離攻撃で敵を引きつけ、近づいてきた敵をむっちゃんが鉄拳で殴り倒すこと。あまり積極的に敵に近づくなよ」

「あくまでもオレたちは陽動ってわけだな」


 むっちゃんは指をぽきぽきと鳴らしながら、やる気十分といった感じだ。


「あと、わかってると思うけど、銃を持っている奴がいたら優先的に倒せよ」

「わかりました。主」

「頼んだぞ」


 俺は二人の顔を見る。


「派手に暴れてやる。その代わりチカホを頼むぞ」

「わかっているよ」


 と二人に指示をしたところで、小春が問いかけてくる。


「先輩、わたしは?」

「俺と一緒に南東の鉄柵を壊して、さらわれた人たちを助ける。病原体を注入されていたら優先的に治療しないとマズいからな」

「そうですね。ゾンビ化したら、もう助けられませんし」

「小春は、俺が治癒魔法に専念している時に敵がきたら、グリちゃんと協力して排除してくれ」

「がんばります!」

「ピィー!」


 と、小春の肩にのっていたグリフォンも了解したように鳴く。


「よし、二手に分かれよう」


 と、その前にむっちゃんと道世に聖衣蒸着(ホーリー・クロス)をかける。


「ありがとう。気をつけろよ」

「ああ」

「主もご武運を」


 二人と別れて敵拠点の南東部へと向かった。


 そして、茂みの前でしゃがみ込む。


「ここで待機だ。二人が暴れ始めたら突入するぞ」

「はい。なんか緊張しますね」

「ホードの時よりいいだろ」

「まあ、アレはある意味地獄でしたからね」

「今回は空飛ぶ奴らもいないし、敵の数もそんなに多くない」

「ええ、それだけが救いです」


 しばらく物陰で隠れていると、拠点内が騒がしくなる。


「敵襲だ!」

「ビーサイドモートさまに知らせろ」


 むっちゃんたちが突入したようだ。


「よし、そろそろいいかな」


 俺は自身に筋力強化(ホーリー・マッスル)聖衣蒸着(ホーリー・クロス)の魔法をかけると、鉄柵をひん曲げて、人が通れるようにする。


「先輩、グールが2体ほどこちらに向かってきます」


 俺は即座に炎球(ファイア・ボール)を打ち、一体を火だるまにする。


 もう一体は飛んでいったグリフォンが胸を貫いて核を破壊した。さすが幻獣、小さいままでも攻撃力はすげえな。


「行くぞ」

「はい」


 小春と共に拠点内へと突入する。



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