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【ギリシャ物語】南国。  作者: 銀糸雀
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<簡易人物紹介>(詳しくは短編『登場人物』ご参考下さい)


●ヘルメス<伝令神>

茶髪緑眼。陽気な曲者。

女性には手が早いが、ことアポロンとの関係では完全に足が竦んでいる。


●アポロン<光明神>

金髪青眼。ロマンティストなシスコン。

ヘルメスの親友。だか、この二人の仲に亀裂が…。


●イリス<虹の女神>

金髪空色眼。おっとり優しい。

ヘルメスの同僚でやはり伝令の女神。虹の橋を作り出す。


新しい年を迎えるに当たって、オリンポスでも連日華やかな祝宴が行われた。

その中で最も盛り上がったのは、ゼウス主催による宝くじ大会。

一等はなんと、南国の島での一週間の休暇を与えられる。

日々様々な業務に追われる神々にとって、それから完全に解放されるという主神お墨付きの休日は、何よりも魅力的なものだった。

…しかし、ゴロゴロしているよりは仕事をしていた方がいい、と豪語するかの青年が、妙に引きがいいのも事実であり。

結果、ヘルメスは周囲の羨望の眼差しを集めながら、途方にくれる羽目になった。


「で?なんで同行者に私を選ぶんだ?」

「……だから、悪かったってば」

イリスの「気をつけてね~!」という声に送られつつ、二人は”南国プライベート・ヴィラ”とやらに足を運んでいた。その位置は神々の中でもゼウスしか知らないらしく、イリスが掛けてくれた虹の橋を渡っての道行となる。

なんで誰にも知られない別荘(ヴィラ)を作る必要があったのか、どうせ禄でもない目的だったのだろうと、ヘルメスは溜め息混じりに考える。しかし、当初の目的が果たせなくなったので、宝くじの景品にでもしてみたのだろう。

くっきりと”ペア宿泊”と書かれているその文字は、きっと独りぼっちで休暇を過ごすような寂しさを味あわせないためのゼウスの慈悲に違いない。

しかし…。

「ヘルメス」

隣を歩く、天界一の美形との呼び声も高い神…アポロンは、新年早々愛する(アルテミス)と引き離され、不機嫌そのもののご様子で。

「お前も私などではなく、可愛い女性でも一緒の方が楽しいんじゃないのか?」

「…いやまぁ…相手がいればねぇ…」

残念なことに、現在ヘルメスは絶賛フリー中。仕事が忙しく、女性を口説く時間もままならなかった。同僚のイリスは流石に伝令の神が二人ともいなくなるのはなんだから、と誘える訳もなく。

オリンポス1、2のプレイボーイとしては寂しい限りだが、多分原因はそれだけではない。

(自覚って恐いよなぁ…)

ヘルメスはぼんやりそんなことを思う。

今まで普通にしていたことが出来なくなる。

例えば、この微妙な距離とか。

伸ばそうとして、空を掴む指だとか。

「あるいは、アレスかディオニュソスを誘えば、喜んで付いて来ただろう」

「いや、恋人がいる人はね。流石に悪いかなと思って」

出来るなら、宿泊権自体を譲りたかったが、くじ引きの景品はあくまで本人が消費すると宣言されており。

とっさに傍に居たこの親友と行きます、と応えてしまったのだ。

…それ以来、どうもアポロンの表情は険しいままだった。

「私ならいいのか」

「だから、ごめんって」

そんな会話ばかりを繰り返す。

ヘルメスはちらり、と相手の顔を伺って、もう一度溜め息を吐いた。


色鮮やかに木々が生い茂る美しい島に二人は降り立った。

海岸は見渡す限り真っ白な砂浜。海はエメラルドからブルーグリーン、瑠璃色と色を変える。

砂浜の先は亜熱帯らしい密林になっており、美しい花々が彩りを添える。

「うわ~、また気合入れて作ったなぁ、これ」

「…こういうことに関しては、親父は天才的だな」

ぼそり、と呟いたアポロンの表情が少し緩み、ヘルメスはほっと息をつく。

「ニンフたちはいないんだよね?」

「無人管理らしい。…どうなっているのかは知らないが」

ふむ、とアポロンは海岸を臨むやや小高い丘の上の、木々の隙間から垣間見える建物を指差した。

「あれが件のヴィラのようだな」

ぐるっと回って行けばそこそこの距離だが、勿論空を歩ける二人にはあっという間の場所だ。

オリンポスの神殿からすればごく小さい、しかし二人で休暇を過ごすには広すぎるほどの敷地に茅葺き屋根の建物が幾つかあり、その中には寝椅子のある大きなテラスや、東屋(バレ)付きのプール、花びらを一面に浮かべた浴槽などが設備されていた。

シダやバナナの木で囲まれた南国らしい壁の少ない館は、代わりに白いシルクの天幕で目隠しがされているため、開放感と共にプライベートな雰囲気も保っている。木材を多用したオリエンタルな居間には、見たこともないような南国のフルーツが山と積まれ、古今東西のありとあらゆる酒がたっぷり用意されていた。

「ディオニュソスが居たら喜ぶだろうな」

酒棚を見て、ぴゅう、とヘルメスが口笛を吹く。

「…だから、私ではなくあっちを誘えば良かったんだ」

スタスタと歩き過ぎるアポロンを、ヘルメスは慌てて追いかける。

やがて、最も大きな棟の入口で、アポロンがじっと立ち竦んでいるのに気付く。

「……どうした?」

近付くにつれ、ヘルメスの目にもそれが飛び込んできた。

大きな窓を四方に取り、海を見下ろす抜群の景観を誇る部屋の真ん中に、


超キングサイズのベッドが一つ。


「…あっちゃ~~~」

ヘルメスは額を押さえた。

「これ、当たったのが僕で良かったな。もし、ヘラ様の耳に入ったら、ゼウス様はどんな目に合っていたやら」

部屋の中に入り、大きな天蓋付き寝台に濃緑のマントを放る。

「あの馬鹿親父…自分のハネムーンに用意したものを景品に転用するなと」

アポロンの拳が握り締められ、そしてすっと開かれた。

「私はあっちの椅子で寝る」

「え、ちょっと……!」

驚きと困惑で目を瞬かせるヘルメスに、アポロンはふっと苦笑を浮かべる。

「確かに私は理性の神だが、それが一点の綻びもないと思うのは間違いだ」

「え?」

「…別に怒っているわけじゃないということだ」

手をひらひらと振って、アポロンは庭の方に引き返した。












●おまけ:出発直前の会話。

イリス「…恋人がいらっしゃらないなら、お子さんと行けば宜しかったのに」

ヘルメス「う~ん、僕、意外と子持ちなんだよねー。それが元で兄弟げんかされたりしたら困るし」

イリス「あら、そうでしたわねぇ」

ヘルメス「(うっわ~、アポロン凄い睨んでるよ…)ねぇ、やっぱりイリスは休暇取れ…」

イリス「あら、ヘラ様がお呼びですわ~。ヘルメス様、アポロン様、気をつけてね~」

ヘルメス「………。(がっくり)」

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