世紀末暴力都市
20XX年、西日本の巨大都市、星鬼松市は独自の発展をとげ、恐怖と暴力が支配する世紀末暴力都市となっていた。
ある日、星鬼松市長の地獄王猛丸は、外でたまたま見かけた女に一目ぼれし、力ずくで自分の嫁にしようと誘拐してしまう。困り果てた女の家族は、無敵の覆面ヒーロー、にゅうめんマンに救出を依頼した。
にゅうめんマンは、黒ずくめの覆面レスラーみたいなかっこうをした、にゅうめんが大好きな正義の味方だ。
快く依頼を引き受けたにゅうめんマンは、無法の地、星鬼松へと出発した。だが、星鬼松市へ向かう電車の中でついうとうとして、座席に座ったまま眠り込んでしまった。
* * *
「終点だと言ってるだろ!とっとと起きろ豚野郎!!」
「ぐふっ!」
突然駅員に蹴飛ばされて夢から目覚めたにゅうめんマンは、うめき声を上げた。寝起きのにゅうめんマンは、わけが分からず駅員に言った。
「いたたた……一体何事だ」
「何事もカニミソもあるか!電車が終点に着いたんだよ!バカみたいに眠り込みやがって!とっとと車両から出て行かないとぶち殺すぞ!!」
「むちゃくちゃ言うな!もっと優しく起こせるだろ!」
にゅうめんマンはプンプン怒って電車を下りた。いきなり蹴飛ばされたのには驚いたが、とにかく星鬼松市には到着したのでよしとした。
駅では、スキンヘッドの男、モヒカン刈りの男、ちょんまげの男など様々な人が行き来していた。にゅうめんマンの目的地である市役所へは、ここで他の路線の電車に乗り換えれば行ける。だが、先ほどの出来事で星鬼松市の電車の印象がひどく悪くなったので、にゅうめんマンは、電車ではなくバスに乗ることにした。
しかしこの駅、星鬼松駅の周辺は、たくさんの建物や道路が3次元的に複雑にからみ合っていて、余程慣れた人間でなければ、まっすぐバス乗り場まで行くのは難しい。何かの間違いでよそから星鬼松市へやって来た人が、この駅でさまよい続けた挙句に行き倒れるというのは、よくある話だ。時々足下に人骨が転がっているのは、そうした人たちのなれの果てだとも言われる。
バス乗り場までの道順が分からないので、にゅうめんマンは、駅前の百貨店の正面を歩いていた通りすがりの男にたずねた。
「すみません。バス乗り場へはどう行けばいいですか」
男は答えた。
「……10万だ」
「は?」
「10万円出せば教えてやる」
「10万円も持ってませんが」
「しけたやつだ。じゃあ9万に負けてやるよ」
「9万も持ってない」
「金もないくせに人にものをたずねるんじゃねえ、アホが!死にくされっ!!」
逆上した男は突然にゅうめんマンに殴りかかった。
「いくらなんでも気が短すぎるだろ!」
にゅうめんマンは男の攻撃を簡単にかわして殴り返した。自分が勝てないことが分かり、男は捨て台詞をはいて逃げ去った。
「覚えてろ!お前の母ちゃん、いかれポンチ~」
「いかれポンチはお前だ……」