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グールにされたけど、死んだふりで許してください  作者: 良心の欠片
1.始まり
7/53

7.グール、放浪の旅へ


(いやー、逃げきれてよかった……)


 人狼の森をぬけだし、道中にあった雑木林も駆け抜け、今は平野を歩いている。

 そよ風に揺れている草と小花が夕日に照らされている。


 人狼の森を脱出したのが朝方だった。

 現在は夕暮れ時。


 行きではこんなに時間はかかっていない。しかし、現在は倍以上の時間をかけてあの集落に帰っている。それはなぜか。はい、道草を食っているからです。

 『いや違う!これは無駄な草を食べているわけじゃないんだ!』と主張したい。その証拠は背中や腕に抱えられているものだ。大量の穀物と果物を抱えている。


 

 そう、集落の人たちの食料供給サンタになるつもりだ。

 彼らの一番の問題は、食料がないことだ。あの皮と骨しかない姿には、グールであるこっちが心配になる。青白いことを除いては、こっちの方が健康体だ。


(あの栄養状態は流石に見逃せない)


 ん?この食料をいれてる大きな袋はどうしたのかって?

 ……知らなくてもいいことってあると思う。人狼の森でそこら辺にあったのをちょっと拝借したとか、そういうわけじゃないから。泥棒じゃないよ?ほら、森を救った報酬だと思ってくれないかな?!







 脳内で懺悔をしながらも、集落にたどり着く。

 完全に夜になる前でよかった。彼らはまだ起きているようだ。


 数日前と変わらず、沈んだ様子の人々は復興しようとする気力もない。それもそうだろうと思う。そもそも復興するための材木もなにもないのだから。




「……ん?前にきた奴か、ここには何もないから帰りな」

 俯いている彼らの中の一人が、こちらの気配に気づいたようだ。

 グールの方を見ることすらしない姿は、心が痛くなる。


(こっち見て!)

 声が出せないかわりに、その場でジャンプをして存在を主張する。

 

ドシッドシッ


「「「?」」」

 音が聞こえた方に、人間たちの視線が集まる。


「な、なんだあの荷物を背負った奴は……」

「あんなでかいモン持てるなんて、バケモンか……?」


ドサッ


 バケモンと言われた者は、背負っていた袋を地面に置く。そして、周囲に見せるように中身を広げだす。中身を傷つけないように、丁寧に取り出している。


「これは……穀物に果物?」

「どうしてわしらの前に広げているんだ?」

 人間たちは困惑する。謎の奇行をする存在に、目が釘付けだ。


(驚きをプレゼント!)

 得意げな様子のグール。

 驚いて固まっている人間たちに、次々と果物を配る。

 反応がいまだに追いつかない彼らは、そのままそれを受け取る。


 最初は戸惑って口にしなかったが、一人の若者が意を決したようにその果物にかぶりつく。そして「うまい」と呟き、涙を流した。その様子を見ていた人々は、次々と果物を口にする。皆、一様に涙を流しながらそれを頬張った。



 彼らのお腹が満たされるまで、グールは果物を渡し続けた。








「ありがとう……本当にありがとう……」

 

 お腹が満たされ、気力が湧いた人たちは壊れた家屋を修繕し始めた。グールに感謝を伝えているのは、力仕事に向いていない老人や女子どもだ。復興をしている彼らの分も感謝してくれる。


(いや……そんな……)

 正直、ここまで言われると気まずい。

 後頭部をかきながら、果物とは別の袋に入れていた穀物を渡す。いや、押し付けたと言った方が正しいだろう。なかなか受け取ろうとしない人たちの前に、大きなその袋を置き逃げした。


 

 もうあの集落に戻ることはない。

 


 自分ができる範囲のことはここまでだと思ったから。これ以上は彼らの自立心を腐らせてしまうことになる。そんな責任を負えるほどの心の強さはなかった。


(なんだか、善意の押し売りをしたような気がする……)

 後悔に似た感情がわく。自身の行動を振り返ると、「あれでよかったのか」という言葉が頭の中でこだまする。

(いや、あの行動が間違いだとは思わない)

 偽善と善の葛藤を味わう。


(ま、いっか!)

 そして、あまりのシリアスさに思考をぶん投げた。

 考えても仕方ないことは、もう仕方ないのだ!

 


 能天気に草花を愛でながら、平野をあてもなく歩く。

 グールは、目的地のない長い旅へと踏み出した。

 













______________________________





 太陽は浮き沈みを繰り返し、巡る星々を幾度も数えた。

 あの集落を去ってから、平野を彷徨い、山を登り、谷を越えた。


 道すがら、あの集落と同じような状態の人々に多く出会った。その度に、彼らの気力が回復するまで陰からそっと手を貸した。決してこの姿を見られないようにした。旅の途中で、やはりグールは人間にとって不気味な存在だと認識したためだ。流石に腕がもげた瞬間を見られたのはダメだったかー。

 しかし、驚いた人間たちの顔はとても最高だった。時折、彼らを驚かしたい衝動に駆られるが、この症状はもしかすると病気かもしれない。なお、この病気を治す気はない。だって、人生には驚きと面白さが大切だから!


 例の黒い結晶も、何度か見かけた。発見次第、すぐにすべて捕食した。無論、おいしくない。食べた日の夜は、必ず悪夢を見た。(前回はキクラゲに体を絞められた夢だった……)




 様々なことがあったが、比較的に穏便かつ隠密に行けた気がする。外敵に襲われることがなかったということが、なによりの証拠だ!誰かに守られているんじゃないかと思うほどだった。


 なんにせよ、今は人間たちの首都である『王都』と呼ばれる場所を目指している。

 目的?そんなもの面白そうだからに決まってる!今までの方向も面白いか否かで決めていたから問題ない。問題があっても、逃げ足の速さは自負しているから大丈夫!


 今いる荒野から『王都』は結構な距離があるらしい。

 速足でいかなくては!


(いざゆかん、『王都』のもとへ!)


 さすらいのグールは面白さを求め、『王都』を目指したのであった。

 





???「はあ、また変なことを考えているな……」


 息巻いているグールを、離れた所から見守っている者がいた。


 灰色の髪にはターバンのようなものを巻き付け、片目はその布で隠れている。どうやら顔を隠そうとしているようだ。それ以外に不審な点はない。ごく普通の旅装束をまとっている人間の男性だ。


「毎回毎回、心配させられるこちらの身にもなってほしいものだ」


 軽く頭を抱えながらも、付近にいた肉食の獣を投げナイフで仕留める。

 黄昏時の薄暗さの中で、金色の二対の瞳が周囲を見渡す。


「さて、ここの敵は一掃したか」


 仕留めた獲物のもとへ歩み、それを回収する。

 その様子をうかがっている小動物たちが陰からこちらを見ている。怯えたような小動物たちの姿に、複雑な思いを抱く。


「もし我が姿を現わせば、お前もあんな目で我をみるのだろうか」


 問いかける視線の先には、陽気に鼻歌を歌っているグールがいた。






 グールを見つめるこの人物は『ガルク』という名であり、人狼だ。ついでに言うと、人狼の森でリーダーと呼ばれていた。人狼一族の中でも屈指の強さを誇る者だ。


 そんな彼だが、現在はただのグールの護衛をしている。それも無償で。さらに言うと、護衛対象には存在の認識すらしてもらっていない。完全なる慈善活動。


 彼にとっては、それでも構わなかった。彼の目的は、一族の教えである「忠義」を果たすこと。森を救ってくれたグールに、その恩を返せればそれでよかったのだ。


 しかし、彼はその恩返しとは別に、あのグールの無頓着さにヤキモキしていた。



(なぜそこで寝る。暖かくしないと体を壊すかもしれないだろう)


(雨に打たれた服をどうして乾かさない。体温が奪われるだろう!)


(こんなに近くで自分を狙っている獣にどうして気づかない!)



 終始こんな心配をさせられていれば、なかったはずの母性もわくだろう。彼を突き動かすものは、「忠義」以外に「庇護欲」が追加された。彼の現在の心境は、雛鳥の独り立ちが心配でついて回る母鳥だ。本物の鳥たちは、本来そんなことをしないだろうが。



 こうして、グールの知らぬところで勝手に彼女の保護者が誕生していた。




『おい、そこは危険だと言っているだろう!』


 なんとも小言が多そうな保護者だが、その声が届いていないことは()のグールにとっては僥倖だったのだろう。




 

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