(46).主人公の葛藤
これは46.の主人公の独白です。
カットした部分を載せました。
夜明け前の部屋は、まだ薄暗い。
まるで今の私の心を映しているようだ。
「〈黒変〉が消えれば、私も消える……?」
今まで自分を不老不死のグールだと思っていた。
どれほど無茶をしても、自分は大丈夫なんだと……死ぬことはないと。
でも、それは間違いだった。
「はははっ……。不死?まさか!」
ドンッ
決して開かない、壊れることがない窓に両腕を叩きつける。
項垂れた頭に、冷たいガラスが触れる。
(もう結晶を食べずにいようか)
邪な考えが頭をよぎる。
同時に、〈黒変〉で死んでいった者たちの顔が浮かぶ。
「駄目、駄目だ。そんなことは……」
かつての旅の記憶が、逃げ出すことを許さない。
あんな光景を見ておいて、見ない振りをするなんてできない。
それに、私は結局結晶を食べずにはいられないだろう。
結晶を目にすると、衝動に襲われるのだ。
“食べなければ”という衝動が。
(きっとこの衝動も、私に組み込まれたものだろう)
私は今まで、手のひらで踊らされていただけだった。
影が言っていたように、私はただの〈黒変〉を処理するための道具だ。
窓に映る自分は、酷い顔をしていた。
まるで、行先がわからなくなった子どもみたいな顔。
もう、自分に意思があるのかもわからない……。
「………いや、違う」
あの旅も、王都で過ごしたことも、彼らと出会ったことも。
すべて私が選んで、進んできた道だ。
たとえ、〈黒変〉を消すための衝動が仕組まれたものだったとしても、あのすべてが決められた運命だったとは思わない。
「………」
十分に冷えた頭を、窓から離す。
窓の外にある木に、二羽の小鳥が肩を寄せ合っていた。