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グールにされたけど、死んだふりで許してください  作者: 良心の欠片
5.〈黒変〉
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50.廃城の内部


「ここは一体どうなってッゲホゲホっ!」


「あまりこの空気を吸うな」


 ゼノに背中をさすられ、口元を手で庇う。

 そして、永遠とも思えるような回廊を睨んだ。

 


 〈黒変〉が蔓延る廃城に入ったのは随分前。

 行けども行けども、崩れ落ちた瓦礫しかない。

 ひっくり返したり掘り返してみたりしたが、結晶はなかった。


「大気がこんなにも黒いのに!なぜ結晶が見つからないんだー!!」


「落ち着け」


「でもゼノさん!こんなに見つからないのはおかしいですよ!」


 いつもであれば、「はい見つけた」で終わりなのに!

 厄日?やっぱり厄日なのかな?


「……俺に言い忘れていることはないか」


「急にどうしたんですか?」


 唐突に、前を歩く彼からそう問われる。

 特に言い忘れたことが思いつかず、彼の様子を窺う。


「そうか」


 こちらを振り返ることなく、ゼノは前を歩いていった。

 

「?」


 不思議に思ったが、彼の声色から感情を読み取ることもできなかった。

 少し不穏な雰囲気になったまま、私たちは城を徘徊した。






 城を暫く歩き回った頃。

 私は廃城の中庭であったと思われる場所にいた。



「ここまで来ると、作為的なものを感じる……」


 この城には絶対に結晶がある。

 夢の中の影も、これが“最期の〈黒変〉”だと言っていたから、そのことは確かだ。


 しかし、全く見つからない。

 こんなことがあり得るのだろうか。


「ゼノさんがいないうちに、もう一度探索してみるか」


 近くで魔族の反乱が起きたらしく、ゼノはそれを知らせにきた騎士と共にここを去った。彼は「すぐに戻る」と言っていたけど、まだ帰ってこない。


 ここから動くなと言われたけれど、気になる部屋がある。

 行ってすぐに戻ってくれば大丈夫だろう。


「……上か」


 ここから見える城の最上階。

 そこに、なぜか目が吸い寄せられる。


 あそこに何かある気がする。









「ここは……」


 壁に残った手錠のようなものや、足首を固定するような器具。

 ……ここは人を捕らえておくための場所だったようだ。


 ガシャンッ


 忌々しい器具を踏み砕く。

 足元には、黒い塵が散らばった。


 〈黒変〉は全てを平等に消し去る。

 ここに捕らえられた人も、この城の人も、同じように塵となったのだろう。


「あれ?」


 隅の方に鈍く光るものを見つける。

 近づくと、鈍く光る黒いものだとわかった。


 砕け散っているようなソレは、とても見覚えがあった。


「……結晶、の破片?」














 ワアアァァーーーー!


「閣下!西の制圧は完了しましたッ!」


「閣下!こちらも完了しました!」


 手に持っている鏡を見つめている閣下に報告をする。

 この方は一体何をしているのだろうかと、隣の騎士と視線を交わす。


「ご苦労」


 視線をこちらに向けることなく、閣下は一言。

 言外にさっさとどこかに行けと言われているような気がする。


「「………」」


「下がれ」


((あっ、やっぱどっか行けってことだったのか))


 釈然としないながらも、報告を終えた騎士たちは下がった。



 外からの喧騒のみが聞こえる天幕の中。

 ゼノは、紙が散らばったテーブルの上に手を置く。


 そして、手の甲に刻まれた紋章を撫でた。


「………」


 この紋章は“大蛇の書”で刻んだもの。

 ただ、この紋章は必ず対になっていないと刻まれない。


「ネル」


 この手にある紋章との対を刻まれている者の名を口にする。

 グールがなぜ人間のように振る舞えているのかはわからないが、あれはかつて自分を救ったグールだ。背中の左肩甲骨あたりに刻まれていた紋章が、その証拠だ。


「俺たちはつながっている」


 紋章によって、相手の存在を感じることができる。

 ただ、紋章のことを知らなければその効果は発揮しない。 


 そして、“大蛇の書”は紋章を刻みあった者同士を結びつける。


 その魂までも。


「永遠に一緒だ」


 ほのかに光る紋章を恍惚とした瞳で撫でるゼノ。

 その様子を運悪く目撃してしまったある騎士は、顔を真っ青にして走っていった。






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