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43.引き寄せられる運命



「暇だなぁ」


 私は、未だに縛り付けられているベッドでそう呟いた。

 顔に現れていた黒い斑点も完治した。

 身体に異常がないことは、医者に太鼓判を押されている。


「なのになぜっ!ベッドから出させてもらえないのか!」


「大声を出すな。喉に障る」


「元凶は黙っててくれません?!」


 ベッドの傍に椅子を置き、そこに陣取るように座っている『騎士』。

 そう、この人こそが私をベッドに縛り付けている張本人だ。


「斑点完治したんですけど!」


「安静にしていろ」


「お医者さんから治ったって言われたんですけど!?」


「俺はそう思わない」


「素人の意見!」


 暖簾(のれん)に腕押し。

 (ぬか)に釘。


 これらの言葉通りのやり取りを、ずーっとしている。

 最初は大人しく言うことを聞いていたが、途中から脱走をはかった。

 それがばれてしまい、こうしてそばに『騎士』が張り付くようになってしまった。


「お願いですから……。外が心配なんですよ」


 〈黒変〉は今も、刻一刻と浸食しているだろう。

 私は、ここで時間を浪費していてはいけないのだ。


「駄目だ」


「この分からず屋!」


 結局、今日も『騎士』を説得することはできなかった。








 日々をただ無為に消費し続けた。

 しかし、転機は訪れる。


(〈黒変〉が王都の近くに?)


「ああ、そうだよ」


 真っ白のな空間に、私は漆黒と対峙していた。

 この不思議な夢の会合は、頻繫に行われていた。

 まあ、現状できることが寝ることだけだったとも言える。


「『騎士』の彼がその対応をしてるみたいだよ」


 何十回も顔を合わせたせいか、この影とも随分縁が深まった。

 「夢の影のはずなのに、なぜ現実のこと知っているのか」という疑問も、もう口にしなくなった。


(何も言われてない……)


 目を覚ますと基本的に傍にいる『騎士』だが、そんなことは一言も言ってなかった。

 口にするのは、こちらの体調ばかり……。


「彼はどうやら、君に〈黒変〉と関わってほしくないみたいだ」


 影は、まるでそんな場面を見ていたかのように話す。

 今までのことから、影の言うことは正確であることが分かっている。

 『騎士』はどうやら、私を〈黒変〉から隔離しようとしているようだ。


「私としては困った状況だ」


(でしょうね)


 この影は、私に〈黒変〉を解決するように促してくる。

 目的はわからないが、私が結晶を食べることを急かしてくるのだ。


「そこでだね」


(………)


 嫌な予感が。


「家出しようか」


(私に死ねと?)


 あの『騎士』から逃れられると思っているのか。

 文字通り、()()の覚悟でやらなければ成し遂げられないようなことを……。


「大丈夫。家出がバレても、君なら監禁程度で済むさ」


 (監禁程度……?!私を何だと思ってるんだ!)


 監禁なんて恐ろしい言葉を、よくもそう軽々しく言えたものだ!

 『騎士』なら本当にやりかねないんだぞ!

 ……いや、やりかねないじゃない。あの人は絶対にやる。


(グールにも人権があることを主張する)


「まあまあ、家出は私が手伝うから失敗することはないよ」


(そういう問題じゃないっ!)


 この後言いくるめられた私は、家出の準備をさせられることになった。

 そして、決行日は二日後だと告げられた。










(早い、あまりにも早すぎる)


 朝日に目を細めながら、来た道を振り返った。

 展開のはやさに、戸惑いしかない。

 一世一代の家出のはずが、とんとん拍子で完了してしまったのだ。


 まず、今日は『騎士』が屋敷に不在だった。

 そのことも大きかっただろうが、何よりも屋敷中の雰囲気がおかしかった。

 みんな、どこかボーっとしていて注意散漫だったのだ。


(あれが……あの影が言っていた“手助け”か)


 不審人物のくせに、嫌に有能な影に唸る。

 本当に謎めいている。


 そうこうしているうちに、王都の郊外まで来ていた。


「えっと、確か……」


 屋敷からくすねてきた地図を片手に、建物の間を通り抜ける。

 ここら辺は建物が多く、まだ王都にいる感じがする。 


 しばらくすると、田園が多くあるところに辿り着いた。


「あれは……!」


 遠目からも見える、燻ぶる黒い空気。


 間違いない。

〈黒変〉があそこで起きている。












 で、その〈黒変〉が起こった場所に着いたのだが。


「総員、持ち場につけ」


「「「ハッ!!」」」


(なぜ『騎士』がここにッ!?)


 純白の騎士たちが、『騎士』の号令で一斉に行動している。

 珍しく、『騎士』も純白の騎士服を着ている。

 あの姿は、初めて会った時以来見たことがない。


 改めて、『騎士』が「聖騎士」であることを実感する。


 でも、おかしい。

 『騎士』は聖騎士団と決別していたのではないだろうか。

 聖女様と色々あって団を去ったっていう噂は、やっぱり嘘だったのかも。


 遥か遠くの木の上から彼らを眺めていると、『騎士』がバッとこちらを見た。

 瞬時に木から降り、視線を躱す。


(危なっ!!勘が良すぎない?!)


 余裕で1㎞ほど離れているのに、正確にこちらに視線を向けてきた。

 本当に侮れない。

 (グール)の視力も化け物じみているけど、『騎士』の野性の勘の方が恐ろしい。


 おちおち声も出せない。

 しかし、幸いなことに『騎士』たちは〈黒変〉の手前に駐屯している。


(パッと行って、パッと帰ろう)


 一足先に結晶を処分し(食べ)てしまおうと、瘴気が濃い方へ走った。









「閣下がこの依頼を受けて下さって本当によかったです」


 壮年の騎士が、ある一点を見つめている『騎士』に話しかける。

 『騎士』は何も反応をしない。


 しかし、壮年の騎士はそれを気にすることなく懐から手紙を取り出した。


「閣下、これは聖女様から――」


 シャキン


「――っ」


 首元に剣の切っ先を突きつけられた騎士は息を呑む。

 騎士は剣ではなく、『騎士』の表情に冷や汗を流した。


「その名を俺の前で呼ぶな」


「……っ、申し訳ございません」


 剣を納めた『騎士』は、またどこかを見つめだした。


 壮年の騎士は、先ほどの『騎士』の表情に身震いした。

 無表情の中にあれほどの憎悪をこめられるものなのか、と。


「一体、聖女様はこの方に何を……」


 この方が聖騎士を辞めてしまったのは、やはり聖女様との不和のようだ。

 そう確信したが、()聖騎士団長として()聖騎士団長を追求することは控えた。




 そんな壮年の騎士の心中を知ることなく、『騎士』は呟いた。


「なぜ……お前の気配がするんだ」


 檻にいるはずの小鳥の気配に、『騎士』は言い知れぬ苛立ちを覚えた。


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