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40.魔王の真相



「ひどい目にあった……」



 『騎士』に首という首を舐めまわされ、エンダーとガルクが臨戦態勢に入り、それをなんとか宥め終わった所だ。なお、ライトはその状況を爆笑していただけだった。あんの『勇者』め……!


「さてさて、調査を続けますか!」


「こんの愉快犯め……」


「ネルちゃん、聞こえてる聞こえてる」


 そんな悪態をついた私の両脇にはエンダーとガルクが控えている。

 近くにいる『騎士』を威嚇しており、またいつ戦闘が始まるか気が気でない。

 

 これはさっさと調査を終わらせる方が得策だと、伽藍洞の玉座の間を歩き回った。







「やっぱ何もないよっ!」


 数十分ほどで、調査の結果がわかった。

 ここには本当に何もない。


 地下であるため、特に窓もなく壁に細工されている様子もない。

 地面に隠し通路がないかと、地に這いつくばったが特になにもない。


「エンダー!ここって魔王様がいたところだったんじゃないんですか!」


 聞いていた話からは予想もしていなかった状況に、情報源である悪魔に詰め寄る。


「ああ、いたぞ」


「何もないじゃないですか!」


 呑気に宙を浮遊しているエンダーを捕え、縦にシェイクする。

 抵抗する彼と揉めていると、ライトと『騎士』が傍にやってきた。


「まあ、魔王は死んじゃってるからねー」


「!」


 シェイクしていた手を止める。

 私の手からバッと逃げ出したエンダーは左右にフラフラしていた。

 彼はそのまま離れた場所にいるガルクの元へと飛んでいった。


「魔王を知って―――」


 いや、待って。

 彼らは『勇者』一行だ。


 そして、魔王を倒すのも―――。


(……『勇者』だ)


 黙りこくった私に、ニッコリと『勇者』が笑いかける。

 『騎士』の口角も少し上がっている。


「………殺したんですか」


 魔王を。


 聞くまでもないことが口から零れ落ちた。

 忘れていた。なぜか忘れていた。

 彼らは人族であり、「魔」を倒す者たちだ。


 こうして傍にいること自体が異常なことなのに。


 怯える私の傍に、いつの間にか『騎士』がいた。


「そんな顔をするな」


 『騎士』が私の頬を優しく撫でる。

 恍惚とした光を宿す瞳が怖い。 


「壊したくなるだろう?」


「!!!」


 あまりの恐ろしさに体が硬直する。


「おいおい、あまり怖がらせるなよ」


 『勇者』が止めてくるが、声色が愉しげだ。

 『騎士』の行動を止める気があるとはとても思えない。


 蛇に睨まれた蛙になった私に、『騎士』は顔を寄せる。


 互いの吐息が混ざり合う距離に―――。


「待てコラ゛ァアッ!!」


「噛み殺すッ!」


 凄まじい剣幕の2名が間に入ってきた。

 庇うように立っている彼らの様子を見て、身体の感覚が戻ってきた。


「た、食べられる(物理)かと思った……!」


「喰われかけたんだよッ!このバカがッ!」


女子(おなご)との距離は保ってもらおう」


 エンダーに説教をくらっている間、ガルクは『騎士』と何か話していた。

 よそ見をしていると、エンダーからの小言がさらに激しくなった。

 みんな、怒られている時は内心どう思っていようが神妙な顔をしておこうね。




「―――で?魔王様はどういう人だったんですか」


 唯一、騒動に巻き込まれずに愉快そうに傍観していた『勇者』を問い詰める。

 人族がなんだ。魔族がなんだ!

 『勇者』だろうが『騎士』だろうが、頭のネジが飛んでいることに関係ない!


「あれ?ネルちゃん、オレたちがもう恐くなくなったの?」


「変人であることに種族は関係ないと気づいたので」


「え~。怖がってる顔、かわいかったのに~」


「悪趣味め……」


「だから聞こえてるよー」


 エンダーとガルクは『騎士』とまだ何か話しているようで、近くにいない。

 一体何を話し込んでいるのやら……。


「魔王ね~。ネルちゃんはオレたちが魔王を殺したと思う?」


「……?『勇者』だと呼ばれているのなら、そう思うのも当然では」


 私の反応に、満足げに目を細める。


「………もしかして、魔王を殺したのはライトさんたちではないんですか」


「ピンポーン!」


 ライトは両腕で頭の上に丸をつくる。

 自然な様子に、ウソをついているようには思えなかった。


「じゃあ、魔王は魔族に?」


 魔族は内輪もめをしていたと、かつて人狼の一族から聞いた。

 その騒動で魔王は魔族の誰かに殺されたのだろうか。


「ううん、違うねぇ」


「??」


 人族にも魔族にも殺されていないのにも関わらず、魔王は殺されている。

 殺された?いや、ライトは確か「死んだ」と言った。


「殺されたわけじゃない……?」


「そういうこと」


 導き出した答えに丸を付けるように、ライトは笑った。

 彼は段差を上り、玉座のひじ掛けに手を添えた。

 こちらに背を向けているため、彼の表情は見えない。


「オレたちが魔王に初めて会った時、魔王はどんな姿だったと思う?」


 どんな姿?

 どんな姿もなにもないのでは?


「もしかして人型の魔族を想像してる?」


「それ以外に想像できないんですが……」


 角が生えてるとか、マントを羽織っているとか。

 その程度の想像しかできない。


「魔王は人型じゃなかったよ」


「ああ、魔獣に近い姿でしたか」


「いいや、そうじゃない」


「え?」


 ライトがこちらを振り返った。

 その顔には、感情が読み取れない微笑みを浮かべていた。


「魔王は結晶だったよ。――()()()()だ」


「!!!」


 ――()()()()

 瘴気を撒き散らし、〈黒変〉を引き起こす諸悪の根源。


「オレたちはただそれを砕いただけだよ」


 魔王討伐の真相。

 世に語られている魔王と勇者の激闘などなく、真実は魔王と呼ばれた“結晶”を砕いたというだけ。


「魔王は思考することもない無機物の結晶だったんですか……!」


 魔族たちは、物も考えられない結晶を魔王と呼んで崇めていたのか。

 魔王は統率者ではなく、ご神体のような象徴として存在していた?


「オレも驚いたよ。だから王サマにそれを伝えたらね」


 ――『砕け』


「だってさ」


「で、でも結晶を砕いたら瘴気が……」


 あの結晶は増殖する。

 まるでキノコの胞子のように。

 胞子の代わりに瘴気を風に飛ばし、遠くへと根ずく。


 壊しては駄目なのだ。

 どこかの空間へ閉じ込めなければ、アレはどこまでも増え続ける。


「そう。壊された結晶は空中に散らばり、風で各地へと飛ばされた」


 〈黒変〉が起こり始めたのは、そう遠い時期からじゃない。

 つまり、〈黒変〉が起こるようになった原因は―――。


「〈黒変〉が地上で生じ始めたのは、“魔王”を砕いたオレたち……ひいてはそれを命令した王族のせいだね」


「………」


 何も言えなかった。

 下手な慰めは、侮辱につながるだろうから。


「君は優しいね。気休めなことを言わない」


「……気が利かないってよく言われますからね」


「ハハハッ!オレが慰めを求めるような奴に見える?」


「いや、下手な慰めしてきた奴を叩きのめすタイプでしょう」


「ネルちゃんはわかってるね~」


 そのままライトと雑談していると、『騎士』がこちらにやってきた。

 エンダーとガルクも遅れてやってくる。


「あれ、話は終わったんですか?」


「終わった」


「終わってねェよッ!」


「落ち着け、何を言っても無駄だ」


 真顔の『騎士』に、怒り心頭のエンダー、諦め気味のガルクが並んでいる。

 一体どんな話をしたらこうなるのか気にはなるが、詳細を知りたいとは思わない。

 精神衛生は己で守るものだ。


「何を話していた」


 ライトを睨みつける『騎士』に、ライトは両手を挙げて降参している。

 悪いことをしていたわけではないのに、この対応は如何なものか。


「魔王についてですよ」


 ふと視界にキラキラするものをとらえた。

 それは、この場所についてからは外れていたはずの光のリードだった。


「なっ!なぜ首にこれが!」


「離れるな」


「離れてませんよ!」


 どうやら『騎士』は、私との距離感がお気に召さなかったようだ。

 だからって、普通リードをつけてくる?!

 私は犬じゃない!


「もう、リードについてはいいです……」


 諸々を諦め、『騎士』にも魔王について聞いてみた。

 概ね、ライトと同じような情報だった。

 しかし、気になる点があった。


「ここが本当の玉座の間じゃない?」


「ああ」


 どうやらここはフェイクの場所らしい。

 まあ、本当に魔王がいた場所だったら、結晶まみれのはずか。


「行くか」


「うん?」


 『騎士』の言ったことが理解できず、疑問の意味を込めた相槌を打つ。

 それがいけなかった。

 否定する時は、はっきりと「いいえ」と言うべきだった。


「え?」


 『騎士』に突然横抱きにされた私は、急な浮遊感に襲われる。


「うわああああ」


 『騎士』が作り出した亜空間に、『騎士』ともども放り出される。

 一瞬の出来事に、私は制止の声をあげることができなかった。




「あいつ……!オレサマを置いていきやがったッ!」


「アレが執着しているのはネルだけだからな」


「まあ、オレたちはここでのんびりしてようよ」


 残された仲間たちは、こんな会話をしていた。




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