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39.進まない調査


「もお~、ネルちゃんってば手がかかる子なんだから」


「屈辱だ……」


 ライトにこうして煽られているのにも、わけがある。

 このカオスな集団から離脱を図ろうとしたが、失敗に終わったからだ。

 ちなみに、現在もなお、光状の拘束帯は腹部に巻き付いている。


「もう逃げませんから。……コレ、はずしてもらえませんか?」


 帯の主である『騎士』にお伺いを立てる。

 犬のリードみたいにされているのが堪えられないのだが。


「……フッ」


「は、鼻で笑われた!エンダー!ガルク!」


 屈辱のあまり、仲間のもとへと駆け寄る。

 ガルクは慰めるように頭を撫で、エンダーは『騎士』を睨みつけた。


「テメェ、こっちが黙ってたら好き勝手やりやがって……」


 凶悪な目つきの悪魔に、一切ひるまず『騎士』はこちらを眺めている。

 妙な不穏さに、そっと目を逸らした。


「哀れだな」


「はあ?」


 『騎士』が仕掛けてきた。

 頼むエンダー、その挑発に釣られないで!


「表に出やがれッ!!」


 ダメだったー!まんまと釣られたー!


「飼い猫は主人に喉を鳴らしていればいい」


「殺すッ!!」


 今日の『騎士』の口撃力が異常に高いッ!

 これはエンダーが怒ってもいた仕方なし。


「まあまあ、内輪もめはよくないよ」


 ライトが珍しくまともなことをした。そう、珍しく。

 そういえば、『勇者』の割に善行を積んでいるイメージがないな。


「ネルちゃん?よくなこと考えてるね?」


「いや、『勇者』にあるまじき徳の低さだと」


 あ、やば、本音が。


「ネルちゃん?」


「ひぃいいいッ!」


 そばにいたガルクの後ろに隠れる。

 頼もしい背中だ。


「さっさと進むぞ、悪魔」


「はあ?これからこいつを締めるんだよッ!」


「え、エンダーエンダー!行きましょう?ほらほら」


 一行はこうして、なんとか前進した。

 ほんとに……なんとか……。













「それにしても、あまり地下にいる感じがしませんね」


 もっと薄暗くて湿っているかと予想していたが、湿っていないしランプがポツポツ光っていてそこまで暗くない。このランプはおそらく魔道具だろう。上が破壊しつくされている今、光の供給元がないのに平っていられるのは魔道具だけだ。


「あと、なんだかお城の中にいる感じがします」


 私がかつていた地下とは似ても似つかないほど優雅な装いだ。

 あのコンクリート一色の地下と比べれば雲泥の差。

 きっと地上の魔王城も、こんな内装だったんだろう。


「まあ、この地下は高位魔族のお気に入りだったからねぇ」


 前を歩いていたライトがそう言ってきた。

 そういえば彼は『勇者』だった。

 ここに来たことがあるのではないだろうか。


「ライトさんはここに来たことがあるんですか?」


「………」


「ライトさん?」


「うん、どうしたの」


 ニッコリとした笑顔に、無言の圧を感じる。

 そう、これ以上聞いてくれるなという……。


「い、いや~、ほんとキレイな場所ですよね!……所々、ひび割れてるけど」


 壁に装飾されている金の文様に目が奪われる。

 だかしかし、大きな振動でもあったかのようなひび割れに目を背けることもできない。


「一体、ここで何が……」


「さあ、張り切って行こうー!」


「………」


 不自然なほど明るいライトと共に、まだ豪華な装飾品が残る廊下を歩いていった。

























「―――って、何もなーいっ!!」


 片っ端からドアというドアを開け放ち、その中を調べつくした。

 しかし、どこにも〈黒変〉に関連しそうなものはなかった。


「………あと『騎士』、さっきから頭を撫でるのやめてもらえます?」


「……?なぜだ」


「いや、こっちのセリフなんですけど」


 腹部にあった光の帯は、いつの間にか首に巻き付いている。

 光のリードをつけられ、頭を撫でられている。

 犬にでもなった気分だ。


「テメェ、オレサマの契約者から離れやがれッ!」


「前から言おうとしたが、距離が近い」


 エンダーとガルクの非難にも、『騎士』はどこ吹く風だ。

 その様子に、こちらも諦めの境地に達してきている。

 ライトはというと、愉し気にこちらを眺めている。


「なんの……!収穫もありませんでしたッ」


「ネルちゃん、急にどうしたの」


「あ、高みの見物はすみました?ライトさん」


「トゲのある言い方だなぁ」


 なにか色々と面倒になった私は、思ったことを口に走っていた。

 それにツッコミをいれてきたライトに、チクチク言葉をかける。

 八つ当たりとは、言うことなかれ。


「だって!こんなにも調べ回っているのに、瘴気の『しょ』の字もないよ!」


「まあ、ここはだいぶ昔に〈黒変〉が起こっただけの場所だからな」


「エンダー、それはそうだけど」


「そもそも、手掛かりがある可能性は低かった」


「ガルク……、これ以上私の心にダメージを与えないでくれます?」


 仲間であるはずの二人に、背後から言葉で刺される。

 あれ?君たち仲間だよね?


「まあまあ、まだ奥の方は調べてないし」


「お前はよくやっている」


 『勇者』と『騎士』の方が優しいんだが。

 おかしいな。後から仲間になった方たちですよね?

 こっちの方が優しいんだけど。


「そ、そうですよね!まだ奥に行ってないですもんね!」


 バッと奥へと目を向ける。

 そうだ、廊下はまだ続いている。


 でも気のせいか、奥へ進むほどに破損具合が酷くなっている感じがする。

 ……嫌な予感がする。


































「こんなこったろうと思ったよ!」


「ネルちゃん、どうどう」


 ライトに言葉で慰められ、『騎士』に頭を撫でられる。

 ちょっ、髪がボサボサに……なってないな。

 この人……、頭の撫で方が上手くなっている?!


 こうも私が激昂しているのは、最奥へと辿り着いたのに何もなかったからだ。


「玉座っぽいよ?王様いそうな雰囲気で文化遺産的で素敵な場所だよ?」


「うんうん」


「でも椅子以外ないとは思わなかったよ……!!」


「そうだねー」


「ライトさん!ちゃんと聞いてます?!」


 ニコニコとしているだけのライトの胸ぐらをつかみ、揺さぶる。

 

「落ち着け」


「でもエンダー!こんなのってないですよ!あんなに歩いたのに……!」


「うるせぇ!耳元で叫ぶな!」


「エンダーぁぁぁー」


「まとわりつくな!鬱陶しいッ!」


「ひどいっ」


 対応が冷たいエンダーに迫っていると、ガルクが傍にやってきた。


「ネル、我のところに来るといい」


「やっぱり、持つべきものはガルクですね」


 キラキラした視線をガルクへ向ける。

 ガルクは尻尾をブンブンしている。……もげないか心配になるくらいだ。

 

 犬のような反応をする人狼を観察していると、視界が急に暗くなった。


「うわっ!敵襲?!」


「あー……、それゼノだね」


「ゼノ?」


 一体誰の事かと思っていると体が反転し、視界が明るくなった。

 と思ったら、目の前に『騎士』の顔がアップでうつった。


(そうか……、ゼノって『騎士』のことだったのか)


 あまりの顔の近さに、そっと目を逸らす。

 相変わらず、距離の近い人だなー。


「おいクソ騎士、距離が近ぇよ」


「悪魔の言う通りだ」


 エンダーとガルクが後ろから援護してくれる。

 いいぞ!そのまま『騎士』の奇行を止めてくれ!


「俺に指図するな」


「んだとコラァッ!」


「喧嘩ならば買おう」


「買うな買うな!」


 『騎士』にとって、彼らの言葉は抑止力にならなかったようだ。

 逆に状況がややこしくなっている。


 頭が痛くなってきた。

 

「はいはい、いいから調査を―――」


 色々と面倒になった私が、スッと『騎士』から離れようとした瞬間。


 ガブッ


「いたあぁーーーいッ!!!」


 首筋に痛みが走った。

 そう、以前にもこんな痛みを感じたような……。


「てめッ、殺す!」


 背後からエンダーのどす黒い殺気を感じる。


「覚悟しろ……」


 声が地を這っているガルク。


「わお、大胆♡」


 面白がっているのは、ライトだ。

 他人事だと思って……!


 いまだに首に噛みついてる『騎士』の頭を掴む。


「な、あなたは犬ですかっ」


 離れようとグイグイ頭を押すが、びくともしない。

 

(この人はピラニアか何かか?!)


 一度嚙みついたら二度と離さないという、強い意志を感じる。

 甘嚙みになってきたのが、せめてもの救いか。


「は・な・せ!」


「ひはは」

(嫌だ)


「嚙みながら言うな!」


「ネルちゃん、口調が乱れてるよ」


「非常事態ですから!」


 吞気なライトにイラッとする。

 意識をそちらに向けたのが悪かったのだろうか。


 ペロ


「ひいぃいいいい」


 首筋にぬめるものが這った。

 ま、まままさか……!


「な、なななめ舐められたーー!!」


 首元にいまだに居座っている『騎士』。

 熱心に首筋を舐ってくる。

 味?味がするんですか?


「よし、ぜってーコロス」


「助太刀しよう」


「まあまあ、二人とも大目に見てあげてよー」


 『騎士』の気が済むまで、伽藍洞の玉座の間ではカオスな空間が展開された。

 






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