38.『騎士』と『勇者』が仲間になった(強制)
魔王城付近にあった、ある宿の廃墟では殺伐とした空気が流れていた。
(まあ、そりゃそうなるわ)
片方のソファーには、人狼と悪魔の魔族陣営。
その向かいのソファーには、『騎士』と『勇者』の人族陣営。
そして、『騎士』の膝にいる魔族側のグール。
(いや、解放してよ!)
『勇者』もといライトの転移魔法によって拉致された私たちは、どこかの宿の廃墟で話し合いをさせられている。
内容としては、「オレたちも仲間にいれて☆」だ。
「………いろいろと言いたいことはありますが、私たちの目的を知ってて仲間になりたがってるんですか?」
大前提として、私たちの目的は「〈黒変〉の調査及び撲滅」だ。
王都にいた頃、『騎士』たちの口から〈黒変〉という言葉が出た記憶はないけど……。
「知ってるよ~。〈黒変〉をどうにかしたいんでしょ?」
「………」
(当たってるよー!)
正解を言われ、沈黙する。
流石『勇者』、そこら辺の村人でも捕まえて聞き出したのか。
(いや、まさか。RPGゲームじゃあるまいし……)
『勇者』の情報網に恐れおののいていると、お腹の圧迫が強くなった。
「馬鹿は構うな」
「相方になんてこと言うんだ、お前は」
隣からのツッコミに構うことなく、『騎士』は首筋に口を寄せてきた。
命の危機を感じる。
「おい、それ以上そいつに近寄るな」
「エンダーっ!」
仲間からの助け舟に涙が出そうになる。
普段は悪態ばかりついてるけど、いざとなったらやっぱり頼りになる。
「悪魔の指図は受けない」
「オレサマも人間ごときの指図は受けねぇよ」
バチバチバチッ
激しい睨み合いが繰り広げられる。
その間に挟まっているこちらとしては、気が気でない。
「と、とにかく!〈黒変〉の調査を手助けしてくれるんですね?」
これでは話が進まないと、こちらをニヤニヤ傍観していたライトに話しかける。
睨み合っていた『騎士』と悪魔が、今度は『勇者』を睨みつける。
忙しい人たちだな……。
「うんうん、そうだよ!だから、な~んでも言ってね」
人好きのする笑顔の裏で、一体何を考えているのやら。
しかし、私たちは彼らを欲求をのむしかない。
ここで欲求を断り、対立するのは望ましくない。
「それじゃあ、これからよろしくお願いします」
そう言ったはいいものの、睨み合う『騎士』と悪魔、『勇者』に牙を向ける人狼を見て、私はこれからのことに頭を抱えた。
まあ、とりあえず――
「この腕のけてっ!」
「断る」
「なんでやねん!」
言うことを聞かない『騎士』をどうコントロールするかが、一番の問題だ。
話がまとまり(?)、私たちは改めて魔王城に向かっていた。
ゲームの仲間のように縦一列でついてきてくれたら万々歳だったが―――
「ネルから離れやがれ」
「断る」
右隣の悪魔と左隣の『騎士』が睨み合い――
「久しぶりだな~、兄弟?」
「貴様と兄弟になった覚えはない」
後方では『勇者』と人狼が睨み合っていた。
左腕は『騎士』にしっかりと捕らえられており、自由な右腕は『騎士』の拘束をさりげなくほどこうと励んでいる。なお、その努力は今のところ実っていない。
「ケンカは勘弁してくださいよ……」
ゲッソリと顔で訴えるが、両者ともにこちらの言葉を聞いていない。
この調子では、失うことになるだろう。私のライフを。
「エンダー……、ここはあなたが譲歩してくれませんか」
「なんでだよ」
ジロッ
右側からの視線が痛い。
しかし、ここで退いてはさらなる惨劇に見舞われることが間違いない。
「ほら、偉大なる悪魔の度量をみせるときですよ!」
普段であればこのような賛辞に満足してくれたのだが、今日はどうもそうはいかないようだった。
「は?なんでオレサマがこいつに譲らないといけないんだよ」
「ダメだったか……」
働きかける方を間違えたのかもしれない。
「『騎士』、腕を放して――」
「断る」
一刀両断だった。
うん、この自己中どもめ!
「もう勝手にしてください……」
すべてを諦め、一刻もはやく魔王城につくことを祈った。
「ちょっと待ってください」
無事に魔王城についたはいいものの、ある重大な事実に気づいた。
「ライトさんの転移魔法でくればよかったのでは?」
道中で精神的な疲労困憊になる必要がなかったという事実に。
ライトの方をみると、舌を出しておどけた顔をしていた。
確信犯だ。
「なっ!ちょっとそこになおってください!」
「え~?やだー」
「今日という今日はお仕置きです!!」
グール時代からの鬱憤が溜りにたまっている。
その対価を払ってもらう日だ!
「捕まえてごら~ん」
「逃げるんじゃない!」
ネルがライトに気を取られている間、残りの三人が何をしていたのかを知ることはなかった。
「はあ、はあっ」
「あれ?もう終わり?」
涼し気な顔をしているライトの顔に平手をしたい。
体力はまだまだあるのだが、精神的な体力をゼロまで削られたのだ。
「小賢しいことばかりして……!」
「楽しかったでしょ?」
楽しいわけがない!
絡みついてくる触手はまだかわいかった。
呪われた人形に追い回された時は、死を覚悟した。
「あんなモン、どこで手に入れたんですか!?」
「骨董屋」
「とんでもない店だな!」
やいやい言い合っていると、『騎士』が傍に寄ってきた。
そういえば断罪に気を取られて、他の三人が何をしていたのか把握していない。
「入り口を見つけた」
「もしかして、地下の?」
私の言葉に頷く『騎士』に、急激な申し訳なさを感じる。
「どうしようもない人を追い回している間に……」
尊敬の念で『騎士』を見る。
今度からはこの『勇者』に構わないようにしよう。
「どうしようもないって、ひどいなぁ」
同じく仕事をしていないライトが何かを言っている。
これからは仕事に集中しようか、お互いに。
「じゃあ、地下に行きますか」
ガルクとエンダーが地下に続く扉の傍にいた。
損傷が激しくて、扉は崩れかけているようだった。
「これは開けられますか――」
ね?
そう言おうとした瞬間。
ドゴーンッ
「ゴホッ?!」
ボロボロだった扉が木っ端微塵になっていた。
『騎士』の足蹴で。
「な、なにしてんですかーー!!」
「?」
『騎士』は不思議そうに怒鳴る私を見てくる。
まるで「何を言っているんだ」とでも言いたげだ。
「なに人様の建物破壊してんですかッ」
「まあまあ、ネルちゃん。これが人族のやり方だから」
「人族の中でも特殊な人たちでしょ!あなたたちは!」
「まあ、否定はしないね」
宥めているのかおちょくっているのかわからないライトに、頭痛がしてきた。
この突然の破壊行動に批判をしてくれる仲間を探してみるが、エンダーもガルクも特に『騎士』の行動を気にしていないようだった。
え?おかしいの私?
「行くぞ」
破壊神が先頭をきって地下へと降りていった。
相変わらず協調性のない『騎士』だ。
(まてよ)
彼に続いて降りている三人の背中を見て思いつく。
(このままここからトンズラしたら、単独行動できるのでは?)
正直、このメンバーで順調に行動できる気がしない。
ならいっそのこと、私だけで〈黒変〉について調べた方が効率的では?
そう心の中の悪魔に囁かれた気がした。
(うん、そうしよう!)
彼らの背中を見送り、地下へ行ける他の扉がないか探そうとした時。
シュル
「グエッ!」
腹部に光の帯のようなものが巻き付いていた。
いや、気づいたら手足にも巻き付いている。
その光の帯のもとを視線で辿ると、例の地下に通じる場所からのびていた。
「………あれ?」
空中に拘束された私は、そのままそこへと連れ去られた。
「あれぇえええーー!」