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グールにされたけど、死んだふりで許してください  作者: 良心の欠片
3.海辺の町
33/53

33.ハロー、人狼の森



「や、やっぱ帰りません?」


「ここまで来といて何言ってんだ」


 現在、私たちは人狼の森の前に立っていた。

 いや、ウソである。

 人狼の森は目の前の森を抜けた先の、そのまた先にある。

 現状の自分を簡単に言うと、怖気づいたのだ。


「だって、人狼ですよ?!今も昔も怖いですって!」


「グールが何いってんだか」


「しっ!今は悪魔と契約したあくまで()()ってことになってるでしょ!」


「言い方がウザい」


「なんで?!あくまで何々って言い方かっこいいでしょうが!」


 やんややんやと言い合っていると、いつの間にか本当に人狼の森の前に来てしまった。

 入るのを躊躇っていると、エンダーは躊躇なく足を踏み入れた。

 

(この悪魔、何の躊躇いもなく入った……!)


 怖いもの知らずすぎる悪魔に続いて、私もとうとう因縁の森へと足を踏みいれることになった。








「で、やっぱこうなるか………」


『おい人間!不審な動きを見せたら噛み殺すぞ!」


 デジャヴ感が否めないが、私たちは森に入った途端に囲まれた。

 もはやお約束だ。

 どうにかして敵対心を鎮めてもらわないと。


「あ、あの~」


『なんだ!』


 ピリピリした様子の人狼たちに、挙手をして発言の許可を求める。

 めっちゃ警戒されているが、どうやら発言の許可がでたようだ。


「その、こちらをご覧ください!」


「おい!何すんだッ!」


 突然の行動に目を丸くする彼らの前に、両手でもったエンダーをかかげる。

 さながら生贄を差しだすかのようだ。


「これは悪魔でして」


「これって言うな!」


「なんと私はこの悪魔と契約してるんです」


「聞いてんのかッコラァ!」


「ちょ、うるさいうるさい」


 耳元で叫ばれるこちらの気持ちを考えて欲しい。

 確かに、盾みたいにしてるのは悪いと思ってる。


「だから、私は普通の人間ではありません」


 疑問符を浮かべている彼らに、私はキリッとした顔でこう言った。


「というわけで警戒を解いてもらえません?」


『『『解けるわけないだろ!』』』


 盛大な拒否をくらった私たちは、そのまま人狼たちに村の牢へと連行された。







「おかしいな、あれで友好関係を築くことになると思ってたんですが」


「おかしいのはお前の頭だ」


「ひどい!」


 確かに、悪魔と契約しているから仲良くなろうとは思わないかもしれない。

 でも、物珍しさでちょっとは受け入れてもらえるんじゃないかと期待はしてたのに。


「だいたい、あいつらは人間も他の魔族も嫌いな引き籠り一族だろ」


「なんという言い草」


「悪魔と契約している程度の人間を物珍しさで受け入れるような器なんかもってねぇだろ」


「すごい。私がそばにいない間に、口の悪さが著しく成長していますね」


 鉄格子でできた牢の中でエンダーに頬を引っ張られていると、上の重い扉がガコンッと開いた。


『おい、出てこい』


 武装を解いた人狼の一人が、私たちの方へ梯子を下ろしてきた。

 地下のじめじめに若干やられかけていたところだったから、有難いとは思うが。


「「………?」」


 牢から出される理由がはっきりしていないことが、私たちに疑念をもたせた。









「人狼の森へようこそ、客人」


(り、りりりり、リーダー?!)


 人間のなりをしているが、彼は確かに人狼一族のリーダーだ。

 あの灰色の髪は忘れもしない。


「きゃ、客人?」


(さっきまで牢にいた人に向ける言葉じゃないような……)


「ああ、手違いで牢に入れてしまい申し訳なく思っている」


「手違い?!」


 手違いと言う割には、明白な意思をもって牢にぶち込まれた記憶があるんだが。

 もしかすると、リーダーと警備部隊との間に何かしらの意思疎通不良が起こっていたのかも。


「そうですか……。それならよかったです」


 何はともあれ、危機的状況からは脱せたわけだ。

 早速、本題に入ろうとすると。


「モガッ」


 エンダーに口を塞がれた。


(な、なにしやがるこの悪魔!)


「信用できねぇな」


「それもそうか」


 エンダーの言葉に不快になることなく、リーダーは鷹揚に頷いた。

 

「誠意ってモンを見せてくれねぇと」


「モガモガ?!」


 悪徳金貸しのようなことを言い出した悪魔に、抗議の声を上げる。

 しかし、声にならず鳴き声になってしまった。


「その……客人の口を開放してやってはどうだ」


 心優しいリーダーの言葉に、潤んだ瞳を向ける。

 今まで邪険に思っててゴメン。リーダーは優しい人狼だ!


「このバカはオレサマのだ。どう扱ってもお前には関係ない」


「モガァッ!?」


 とんでもないことをのたまうエンダーに、驚きの雄叫びを上げる。

 お願いだからそろそろ喋らせてほしい。


「………お前のものではないだろう」


 低い声が聞こえ、サッとそちらに目を向ける。

 なんということでしょう、リーダーが不穏な空気を漂わせています。


「もごもごっ」


(エンダー!早く謝ったほうがいいですって!)


「黙ってろ」


(エンダー!)


 必死な私と対照的に、余裕そうなエンダーは飄々とリーダーに言った。


「オレサマは()()()の頼みで、ここに来たんだ」


「………」


「お願い、聞いてくれるよな?」


 苦々しい顔で悪魔を見た後、リーダーは承諾の意を表した。

 あの一瞬で何が起こったのかは、私にはさっぱりわからなかった。






 プンプンしながら部屋を歩き回るネルを横目に、悪魔と人狼は視線を交わさずに話す。


「てめえ、あいつの正体知ってんだろ」


 片眉を器用にあげた人狼は薄く笑った。


「まさか」


「チッ、いけすかねぇ奴だな」


 悪態をついた悪魔は、フヨフヨと主のもとへ飛んでいく。

 そのすれ違いざまに囁かれた言葉にまたしても舌打ちをした。


「あれ、エンダー。なんか機嫌悪そうですね?大丈夫ですか?」


 さっきまで腹を立てていた相手を心配するバカ面の契約者に、さらにイライラが募る。

 吞気に平和ボケしやがって。


「このアホが」


「心配してあげたのに?!」


 ギャーギャーと喚きだした主を適当に相手しながら、先程人狼にかけられた言葉を反芻する。


(何が、「匂いまでは隠せなかったようだな」だッ)


 悪魔としての力量も、自分のアホな契約者も侮られたようで気に食わない。

 

(あと例のグールだってバレたら殺されるって言ってたのにこの手厚い対応はなんなんだよ!)


 バカ契約者と人狼たちとの認識にズレがあることがはっきりした。

 そして、勘違いしている方は絶対にこのアホの方だ。


「エンダー?エンダー!その顔は私をバカにしてますよね?!」


「よくわかったな、流石オレサマの僕」


「いや私の方が体裁的に主では?!」


 言い合いをする主従を遠くから羨ましそうに見つめていた存在に、悪魔だけが気づいていた。


(ったく、変な虫がついてやがる)


 最初の想定とは異なる厄介ごとになりそうだと、悪魔はため息をついた。











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