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グールにされたけど、死んだふりで許してください  作者: 良心の欠片
3.海辺の町
23/53

23.保護



 どうも、「死ぬ」と今しがた宣告された、人間に成りすまし中のグールです。

 いや急にそんなこと言わないで?!恐いから!


 人に死を告げておいて(グールなんですけどね)、平然と書類を捌くとはどういう了見だ。

 この『騎士』には人の心がないのか。


「え、死ぬ?」


「全く、お前はホントに言葉が足りないよなー」


 こちらに目もくれない『騎士』の代わりにライトが説明してくれた内容は、全く喜ばしいものではなかった。まあ、「死ぬ」と言われた時点で良くないことだとはわかっていたけども。




「―――つまり、私は最高級の“材料”だからめっちゃ狙われていると」


「そう言うこと☆」


 『聖女』様のなりすまし計画には、“材料”となる黒髪黒目の人間が必要となる。今までは片方の色しか持っていない人間を“材料”にしていたけど、今は両方とも黒の色を持つ最高の“材料(にんげん)”が現れたというわけだ。 


 腹の立つ顔でこちらを煽ってくる『勇者』を無視し、現状の整理をする。

 「私」という“材料”を使えば、『聖女』様の念願はきっと叶えられる。


 かつて『騎士』が執着していた『グール』と同じ容姿になるという念願を。


(いや、その“材料”の私が『騎士』に執着されてたグールなんですけどね……)


 まさか本物を“材料”にしようとしているとは、彼らも思ってはいないだろう。あくまで、黒髪黒目を手に入れるための“材料”に過ぎないのだから。

 いやしかし、なりすましをするために本物を踏み台にするとは……実に深い因縁を感じる。


「だから選んでいいよ~。騎士団に保護されるか、ゼノに保護されるか」


「騎士団でお願します」


「即答だね」


「これ以上のご迷惑はお掛けしたくありませんから」


(ウソです!本当はこんな恐い『騎士』に保護されるよりも、騎士団の方が断然マシだと思ったからです!)


 しかし、ライトは騎士団と言ったがどこの騎士団のことだろうか。

 この国には3つほど騎士団があったような。


「じゃあ白騎士団に連絡しとくかー」


 そうだ、思い出した。

 この国には確か、白騎士団、黒騎士団、そしてにっくき聖騎士団の3つがあった!

 白騎士団が町の治安維持とかを担当して、黒騎士団がお偉いさん方の護衛だったような気がする。そして、私を崖に突き落とした聖騎士団は神殿を守っている。あの人たちは絶対許さない。


(あれ、そういえば『騎士』はどの団の所属なんだろう?)


 そんな疑問を抱いていたからだろうか、自然と『騎士』の方に目をいってしまった。

 そして、すごく後悔した。

 

 なぜかって?

 めっちゃ『騎士』がこっちを見てたからだよ!しかも深淵の目でね!こわい!


「………俺が保護する」


「え゛」


「お!」


 真逆な反応を示す私とライト。

 いや、何で君は嬉しそうなんだい?ライト君。


 ソファーに座っている人物を横目でこっそり睨みつけていると、『騎士』がおもむろに席を立った。そして、何を思ったのかこちらに歩み寄ってきた。


(何?!こっちに来るんじゃない!)


 どうかライトの方であってくれと願ったが、無駄なことだった。

 ばっちり私の目の前まで来た『騎士』は、そのままじっと私を正面から見つめた。


(パーソナルスペェーース!!)


 距離感がバグっている『騎士』に面と向かって文句を言う勇気もなく、かといって正面から『騎士』を見据える勇気もなかった私は俯いたままその場に立ちすくむ。


 頼むから、何か言ってくれ……!


「見覚えがある」


「ん?!」


 想定外の言葉に顔が跳ね上がる。

 『騎士』のオパールのような瞳に自分の顔が映りこむ。


 大丈夫だ。目の前の人物の瞳に映っているのは、どこからどう見ても人間だ。

 絶対にグールになんて見えるはずがない……!


「君に血縁者はいるか?」


「いえ!天涯孤独の身です!」


「そうか……」


 それでもなお、こちらを見続けてくる『騎士』に焦りを覚える。

 『聖女』様は(グール)の姿になりたがって人体実験するわ、『騎士』はなんか(グール)のことを覚えていそうな気配を醸し出してるわ、みんなどうなっているんだ!


 人は忘れる生き物じゃないのか!何年以上前の話だと思ってるんだ!


「まあ落ち着けよ、ゼノ。もう3年以上前のことだろ?クーちゃんがいなくなったのは」


(3年……!)


 彼らと過ごしていたのは3年以上前のことだったのか。知らなかった。

 なんせ暦とは無縁の生活をしていたもんで。


「黙れ」


「オレたちもいい歳だし、恋人でも作ったらお前も落ち着くんじゃねぇの?」


「俺は落ち着いている」


「はいはい」


 喧嘩が勃発しそうな気配を感じ、比較的話が通じそうなライトに話題を振る。


「そういえば、『勇者』様は何歳なんですか?」


「オレ?24歳だけど。ちなみに、ゼノも同じだよ」


「24?!」


(わ、若い……!しっかりしているから、せめて20代後半かと……)


 待てよ、つまり当時グールを監禁してた『騎士』は少なくとも21歳くらいだった……?


(………)


 恐ろしい事実に気が付いた私は、そっと思考に蓋をした。

 まあ、ほら、あの異常な執着も若気の至りだったと思えば納得でき、できる?


「それより『勇者』様だなんて、ライトでいいよ~」


「いや、それは」


 あまり彼らと関わりを持つのは良くない。

 ボロがでるリスクが大きくなるから。


 私が3年前に逃げ出したグールだとバレた暁には……。

 

「ね、呼んでみて」


(押し強ッ)


「はーやーくー」


「……ライト様」


 せめてもの抵抗を試みるが、ライトの背後から不穏な空気が噴出してきたため断念する。


「ライトさん!」


「まあ、今はそれでいいかな」


 なに「不本意」みたいな顔をしているんだ。

 そして『騎士』よ、そんな極寒の無表情でこちらを見るんじゃない。

 どういう感情でこちらを見ているんだか、全くわからん。


「じゃあ、オレが部屋に案内してあげるよ」


(いや、ここは『騎士』の屋敷では……)


 家主はどう思っているのかと思い、『騎士』の方に目を向けると彼はすでに書類に埋もれていた。どうやら『騎士』は、この3年間でワーカホリックになってしまったようだ。南無南無。 

 

「ゼノ、いいだろ?」


「………勝手にしろ」


 ライトの雑な許可のとり方に、『勇者』と『騎士』の付き合いの長さを感じた。

 3年前の自分も知らなかった彼らの姿を見る機会が、きっと今後もあるのだろう。


 全然彼らのことを知らないのだなと思う一方で、このまま親交を深めたらマズいなと思う。

 人を知ることは好きだけど、グールだとバレて三途の川を渡るのは嫌だ。


(一刻も早く『聖女』様の計画を阻止して、ここを去ろう)


 堅い決意を胸に秘め、懐かしい屋敷の中を歩きだした。

 しかし、目の前でウロチョロしてくる『勇者』が絶妙に邪魔だ。






















「よっ、ゼノ」


「……何の用だ」


 夜の帳が下りた頃。

 『騎士』の執務室で、二人の男が会合していた。


「そんな邪険にすんなよー、オレは『勇者』様だぜ?」


 微塵も己を『勇者』だと思っていない顔でよく言う。

 自分が一番、己の性根が腐っていることを分かっているだろうに。


「さっさと用件を言え」


 銀髪の男はせっかちな相手に呆れたように頭を掻く。

 そして、愉しげに口を開いた。


「なあ、何であの子にあの計画を教えたんだ?」


 「あの子」という言葉だけで、今日の昼間に会った人物を思い出す。

 黒髪黒目の、()()()()()()()()をしていた人間。


「特に理由はない」


 足を組み換え、ソファーに背を預ける。

 目の前に座る奴は、グラスをこちらに向けた。


「よく言うぜ!まだ実行もされてない計画で、一般人を脅しておいて」


「………」


 ()()()()()()()()

 そう、例のなりすまし計画は実行されていないのだ。


「計画を知った時のあの子の顔を見たか?可哀そうになるくらい青ざめてたぜ?」


 知っている。


「特に犠牲者のとこ読んでた時は、こっちの胸が痛くなるくらいの顔してたなぁ」


 知っている。


「ほんと、あの顔は……」


「そそった、だろう?」


「おっ、よく俺のことわかってるな」


 この男の性質はわかっている。

 だが、こいつの思考がわかったのはそれだけが理由ではない。


「流石、オレと思考が似てるだけはあるよな~」


「………ハッ」


 この嗤いが、目の前の奴に対してなのか自分に対してなのか、最早わからない。

 確かなのは、自分とこいつが「あの子」に興味をもっているということだけだ。


「似てた?」


「肌の色を変えれば、アレにそっくりだ」


「やっぱ、お前もそう思ったか」


 3年前、正確には3年5ヵ月22日前、あのグールが消えた。消えた要因となった者はすでに消している。それでも、アレの足取りすらつかめない地獄の日々は、今もなお続いている。


「あの子がクーちゃんだと思ってんの?」


「………」


「あ~あ~、図星ね」


 呆れたような様子だが、目の前の男もその事実を期待していることが手に取るようにわかる。グラスを宙にかざして笑う様子から、新しいオモチャを見つけられたとでも思っているのだろう。


「でも、クーちゃんは肌が誤魔化しようのないくらい青白かったし、何より喋れなかったぜ?」


 使用人たちの報告から、例の人物の肌の色が健康な肌色だったことはわかっている。

 そして、流暢に話せることも。


「それでも疑ってんのは、()()か?」


「そうだ」


「へえー!やっぱりな」


 机に置かれていた本を一冊手に取り、こちらに差し示してくる。

 隠す必要も、誤魔化す理由もなく、肯定する。



 表紙に描かれた紋章を見ながら、己の手の甲に刻まれた紋を撫でた。

 









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