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色変わりプロデュース!! _この異世界は、異常だ_  作者: 鳥兎子
Ⅰ.郷愁の日宮殿編
2/13

◇2◆ どう生かすか、それが問題。


 

「どうやったら、生ける色彩である異世界人(かれら)を救えるかな? 」


「何も考えて無かったの!?」


 ブフッと、ネリアルは憂いのある美男子なのに炭酸飲料(ソーダ)を吹きこぼす。私が頭弱いのなんて、今に始まった事じゃないでしょ。


「今こそ私を手伝って! 色彩を自由にする為のヒントを頂戴、お兄ちゃん♡」


 私がウィンクして分かりやすくぶりっ子で擦り寄ると、ネリアルは白皙の肌をサッと朱に染めて固まる。……シスコンには効果あり過ぎたのかも。


「……具体的に、アイはどうしたいの? 何で今の世界じゃ不満なの」


「不満かぁ。やっぱり、カラフルなはずの異世界人(かれら)に漆黒が混ざる事……かな。皆が皆とは言わないけど、なんか()()()()んだよね」


 私は外の世界を追憶する。老若男女関わらず、『漆黒』を纏うのは異質だった。まるで洗脳されているようで、怖い。死を待つ生前葬みたい。淡い色合いの少女なら、もっと明るい色のワンピースの方が優しくて生き生きと輝くはずだ。

 

「それだよ! 先ずは目に見える色彩で反乱を起こしたらどう? アイが異世界人(かれら)に合うと思う、第二の色彩を提示してあげればいいんじゃない? 」


「成程! つまりコーディネートって訳ね。色彩を自由に選ぶって事の素晴らしさが広まれば……この世界はもっとカラフルになる! ネリアル天才! 」

 

「……そこはお兄ちゃんだろ」


 折角褒めてあげたのに、ネリアルは不満そうに眉を寄せる。もう、我儘なんだから。


「だけど、今まで色彩を弾圧されてきた異世界人(かれら)がカラフルな服を着てくれるかな? 漆黒の人波の中で、一人だけがカラフルならば目立つ。……他の為政者に見つかれば反乱分子だとされて、きっと喰われてしまう。逆に(いのち)を危険に晒してしまうんじゃないかな」


「外の世界で、同時に新しい服を纏えばいい。コーディネートを重ね、反乱の旗を同時に上げるんだ。反乱を起こす時まで新しい服を纏った異世界人(かれら)を匿おう。俺達が背後(バック)で支えればいい」


 ふっ、とネリアルは自信に満ち溢れた笑みで、紫黄水晶(アメトリン)の双眸を細める。為政者の一人として、培ってきた誇りが垣間見えた。

 ネリアルは為政者なのに、何故反乱分子である私に賛同してくれたのだろう。シスコンにしたって、限度があると思うんだ。それに、あっさりと『転生』や『前世』を信じてくれたのも不思議だ。まるで『現代(ぜんせ)』の価値観を知っているかのよう……。


「……ネリアルって、どうしてそんなに私に優しいの? 」


 不意を突かれたように、ネリアルは表情を削げ落とす。さらりとした紺滅(こんけし)の髪が、冷たい光を帯びる。

 

「は……? 妹だからに決まってるだろ」


「だけど私は完全に異世界人じゃない。中身は日本人なんだよ。貴方の妹だって、本当に言えるのかな? もし私が()()してなかったら……」


「仮定の話なんていらない……アイは俺の妹だ!! 」


 私を切り裂くような叫びに硬直する。いつも穏やかで理性的に喋るネリアルの声だと、一瞬信じられなかった。

 私がネリアルの『妹』ではなくなってしまえば、再び死ぬのは私だと気がつく。為政者であるネリアルがその気になれば、反乱分子である私の色を喰らうことなど安易だから。

 

 白皙の頬を怒りで好調させたネリアルは、紫黄水晶(アメトリン)の双眸が潤んでいる気がした。兄を傷つけてしまった事実に、罪悪感が私を締め付ける。私を信じて手助けをしてくれるネリアルを、何故疑ってしまったのだろう。

 

「……ごめん。怒んないで、ネリアルが怒ると色彩がくすんで見えるから」

 

「こんな時まで、色彩の事かよ。アイらしいって言うか……怒ってなんか無いよ」


 無理に微笑して、ネリアルは妹を許す。頭を撫でる掌の優しさは、私の胸を突いた。ごめん、もう疑ったりしないから。


「コーディネートって、どうやってやるんだろう。色彩は大好きだけど、実際の人に服として色を合わせるには……肌色? 」


「あとは雰囲気を見ること、じゃない? 客観的な第一印象と、本人の自己イメージを照合するんだ。会話しながら、魅力をイメージする……想像力も必要かもしれない」


「中々、大変そうかも。私に出来るかな……? 」


「先ずは、アイ自身をコーディネートしてみたら? 自身を試金石とするんだ」


 確かに、練習は必要かもしれない。それに、私自身に魅力が無くてはコーディネートされる異世界人(かれら)も信頼してくれない。コーディネートの実力は、対面時に知れてしまう。私自身が、衣装(ドレス)を飾るトルソーとして輝かなくては。


「私自身の魅力……ね。自分自身をどう思っているかなんて、考えたこと無かった」


 私は、唸りながら腕を組んでグルグルと歩む。平衡感覚をズラせば、私の魅力を生み出すアイデアが浮かぶだろうか。

 

「アイは頭弱いけど、明るくて能天気で可愛い。色彩を真っ直ぐに追いかける所にも輝きがある。色彩は……そうだな」

 

 私の魅力を知り尽くすシスコンの兄は、炭酸飲料(ソーダ)が残る透明な硝子(ガラス)のグラスで私を透かして見る。冷静な紫黄水晶(アメトリン)の右目には、私がどう見えているのだろう。泡が弾ける手の内のグラスに閉じ込められているのかもしれない。

 

「髪色の鈍い紫(モーブ)は、『銭葵(ゼニアオイ)』の事。レモンの果汁で、色が変化するブルーマロウのハーブティーで有名なウスベニアオイの変種で……花言葉は『恩恵』。アイが救いを与えたい、と言う気持ちを表現すればいいんじゃない? 気持ちが見た目で伝われば、本能的に信じてくれるはず」


 私はネリアルの言葉に、弾かれたようにイメージが宿()()。私は生ける色彩である異世界人(かれら)を救う、『救世者』になりたいのだ。


「ありがとう、お兄ちゃん!! ()()()!! 」


「んなっ!? 」

 

 弾ける感動で、私は思わず満面の笑みでネリアルに抱きついた! ネリアルの表情は見えないが、動揺してるのはバクバクと重なる鼓動でバレバレだ。冷静な兄はどこへやら。

 

「……あとは私が私をどう思ってるか、だね。瞳の色から、引き出してみようかな」


「いいんじゃない? コーディネートに必要な、衣装(ドレス)やアクセサリーは()()してあげる」

 

 ぎゅっと私を抱きしめ返すネリアルの囁きで、足元がぐらりと()()


「え、何……」


 足元が(くう)に浮かぶ恐怖に、思わずネリアルを更に強く抱き締めると……クスクスと意地悪い吐息が耳元を掠める。私に()()()()()()()でしょ!?


「確信犯!! 」


「何とでも言えばいいよ。俺は『妹』を()()()()()から」

 

 紫黄水晶(アメトリン)の石言葉の一つは『創造性』。ネリアルにより、創造される新たな未知へと……平衡感覚が歪ませるままに私達は堕ちていった。


 

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