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第7話 ~ 兄 ~

「おまえに兄はいないぞ…?」

「えっ…?」

「我々召使隊は業務をこなすにあたり必要な情報を持っている。1+ある程度の家族情報もあるが…おまえに兄がいるという情報はなかったぞ。」

「えっ、いや、嘘だ!」

「嘘じゃないとも。…本当に兄がいるんだな?」

「もちろんです!兄さんは僕が生まれたときからずっといて一緒に薪を割って運んだりご飯作ったり街に遊びに行ったり山で遭難したり…。とにかく一緒にずっと助け合ってたんです!」

「ふむ……。おかしいな、管理局の情報に漏れがあったか。いや、それがあり得るのか…?」

「管理局って…?」

「管理局は殲滅領域における事務仕事をこなしている組織だ。殲滅軍とは違い基本的には武力を持たない。殲滅領域は陛下を筆頭に戦闘部隊の殲滅軍と事務部隊の管理局の2つで構成されている。殲滅軍は管理局の情報をもとに行動している。」

「じゃあきっとその管理局がミスをしたんですよ!兄さんはどこですか!?」

「まぁ落ち着け。管理局がミスをしたことなど設立の時より1度も無かったのだぞ。それに私も詳しいことはわからん。確認してくる、しばしまて。」

「わかりました…。」

そう言い残してリーロンは部屋を出る。驚きの事実にナーハは動揺していた。慕っていた兄がいないと聞けば落ち着いてはいられないのは仕方のないことだ。しかしナーハはきっと何かの手違いだと、そう思っていた。不安を抱え、ナーハは床の一部を見つめる。

「今確認が取れた。」

「ど、どうだったんですか!?」

「残念だが情報に間違いはない。おまえに兄は本当にいないとのことだ。」

「嘘だ!!!!!!!!!!!!」

錯乱したナーハはリーロンに駆け寄る。

「何かの間違いですよね?兄さんがいないなんて、兄さんはいます!!兄さんは、兄さんは!!!」

リーロンの体を強く揺さぶるナーハ。

「まぁ落ち着け、私も何がどうなっているのか把握できていない。」

ナーハの腕をゆっくり離すリーロン。

「でも、でも…。」

「疑ってなどない、私の権能を忘れたのか?」

「じゃあ!」

「だがおまえの兄に関する情報がないのは事実だ。」

「そんな…どうすれば…。」

「……そうだな…。繁栄の女皇のところに行けばあるいは…。」

「繁栄の女皇…。前にも聞きましたけど誰なんですか?多分神様だと思うんですけど…。」

「繁栄の女皇は守護神が1柱だ。繁栄の称号を冠せし偉大なる御方だ。」

「…ずっと思ってたんですけどその称号ってなんなんですか?」

「少しは落ち着いたようだな。座れ、順番に話してやろう。」

焦りと不安を抱えながらもとりあえずベッドに座るナーハ。部屋にある椅子に座り足を組むリーロン。相も変わらず不気味な仮面をつけたまま語り始める。

「守護神について話すためにはまずは主神について語ろう。」

「主神…?神様のなかでも特に偉いひとですか?」

「そうだな。主神とは凡魂、共振魂、武装魂、神魂を含めすべての生命を統べる最高位の御方だ。世界を創り、生命を創り、運命をも創ったのが主神である。そうして創られたものを管理するのが守護神の役目だ。」

「じゃあその役目に応じて称号があるんですね?」

「その通りだ。たとえば時空の管理者は時空間の歪みによって世界が崩壊しないようそのバランスを調整する役目がある。繁栄の女皇は命の泉の管理、もとい魂の管理が役目だ。魂の循環機構に問題がないか、泉の魂質に異常がないか。魂に関することは大体繁栄の女皇が扱っている。」

「じゃあその神様のところに行けば…!」

「もしかしたら何か分かるかも知れないな。」

「じゃあ今すぐ行きましょう!繁栄の神様の領域はどこにあるんですか?」

「…………。」

「リーロンさん?」

「残念だが領域間の移動は基本的に禁止されている。」

「え、なんでですか!?」

「先刻に言った通り、すべての人間はその適正に応じて居住する領域が振り分けられる。そして適正というのは魂の波長と言い換えることもできる。様々な魂が同所に存在しているのであれば影響は少ないが領域内には同質の波長を有する魂が大多数だ。そこに違質の魂が存在するとその魂の波長に影響され連鎖的にすべての魂に狂いが発生する恐れがある。」

悲しそうにうつむくナーハ。虚空を見つめるその姿を仮面越しにリーロンは眺める。

「どうしても行けないんですか…?」

机に頬杖をつきしばらく黙るリーロン。組んでいる足を組み換え、大きく呼吸をする。

「方法がなくはない。」

「どうすればいいんですか!?」

飛び上がるナーハ。藁にをも縋る思いを目に浮かべリーロンを見つめる。

「要は魂の波長によって影響がでてしまうことが問題なんだ。だから…。」

「波長を…抑えられるようになればいいんですね…?」

「……その通りだ。」

「教えてください。僕、兄さんのためならどんなに辛くても頑張ります!ナイフだって100本も10000本もいくらでも避けます!!」

「……。」

その覚悟が本物であることを確かめリーロンは口を開く。

「魂の波長を抑えるには…魂質階級を武装魂にまで高める必要がある。」

「……それって大変ですか…?」

「ものすごく大変だ。」

静寂。天使のその言葉は今までのそれに比べ物にならないほど重かった。

ナーハは考える。これから待ち受けるだろう苦難の数々、愛する兄の消息、未知への不安。あらゆる思考を巡らせ覚悟を決める。

「お願いします…僕に、武装魂のなりかたを教えてください。」

「……良いのか?」

「はい。兄さんのためです、よろしくお願いします!!」

深くお辞儀をするナーハ。この間、常に権能を開放していたリーロンは深い兄弟愛に感服しついにその願いを聞き受けた。

「分かった。これから苦難の続く日々になるぞ。覚悟しろ!」

「はい!!」

椅子から立ち上がるリーロン。その佇まいはどこか今までとは違う、あの広場で見た恐ろしいメイドに似たような雰囲気を感じた。

「よかろう。ならば陛下にその旨を伝えてくる。今日中には帰れないゆえここで大人しくしているよう。腹が減ったら冷蔵庫の中にいろいろある。好きに食え。」

「分かりました!」

「…………。」

ナーハを一瞥してリーロンは部屋を出た。時計の針が22時を指す。




「------とのことです。」

「そうか。ノアの子が自ら階級の昇進を望んだか。」

「ご計画に影響はないのでしょうか?」

「問題ない。むしろ手間が省ける。……まぁ、これも計画の一部といえば一部だがな。」

「さすがは陛下です。」

「では引き続きノアの子の世話を頼むぞ。特別に必要なものがあればいつでも言うがよい。」

「かしこまりました。……ところでノアの子の兄君はいったいどういうことなのでしょうか…?」

「……まぁ今お主が知るべき事ではない。」

「……分かりました。」

「よい。行け。」

「はっ。」

静かにリーロンは部屋を後にする。

「…………。」

「よっ、調子はどうだ?」

メイの背後、背の高く肩幅の広い男が立っていた。

「貴様……勝手に余の部屋に入るなと何度言えばわかる。」

「まぁまぁ、ここは仕事場だろ?あんたのお気に入りのメイドちゃんももうどっかいったし大丈夫だって。」

「はぁ…つくづく勝手な男だ。」

「で、どうなんだ?計画のほうは。」

「問題ない。貴様も聞いていただろう。」

「まぁな。ま、これも俺のおかげってことだな!感謝してもいいんだぜ?」

「感謝は強要するものではない。あまり余計な口を叩くとつまみ出すぞ。」

「おお怖い怖い、そんじゃ女王様がキレないうちに帰りますかね。」

「……貴様こそ順調に進んでいるのか?」

「…俺は信託の神だぜ。やるべき事はきっちりやりとげるさ。それがたとえどんなに残酷で卑劣なことでもな。」

「……つらい役目を背負わせてすまないな。」

「何を今さら。分かってて俺がなったんだから。気にすんな。そんなに俺の事心配してくれてんの~?嬉しいな~。」

メイの真後ろに男が詰め寄る。

「離れろ!!!!というより今すぐ出ていけ!!!!」

「へいへ~い。ほんじゃ、まったね~。」

男は堂々とした足取りで部屋を出て行く。

「まったく…。やはり男は下劣だ。」




「……陛下も人が悪い。いくら世界のための計画とは言え子供に嘘を教え込むとはな…。仕方のないことは分かってはいるのだがな…。」

どこまでも続くような廊下を歩くリーロン。

「領域間の移動がなぜ禁止されているかだけでも教えてやればよかっただろうか…。」

そのメイドはある部屋の扉の前で立ち止まる。

「まぁ、人間は貴重な資源だから、など言えるはずもないか。」

扉の錠がとかれ、薄暗い部屋の中に消えて行く。

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