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間話 ~ホウジの場合~

キィという金属の擦れる鋭い音を立て扉が閉まる。内側は虹色に光る水面のような壁があり中は見えなかった。

「無事に戻ってこいよ…。」

騒ぎ立てて暴れる者もいるなかホウジは少し冷静さを保っていた。

「…クソッ!なんてったってこんなことに…!!」

それでもホウジは受け入れがたい現実に苛立ちを隠せなかった。

「落ち着け、子供のナーハですらあんなに落ち着いていたんだ。俺がキレててどうする…!」

ホウジの年齢は34歳。平均年齢が60~70のこの世界では比較的年長者で比較的大人としての立ち振舞いというものを理解していた。

「帝都の連中は騒いでばかりでまともに話せやしねぇ。村の人は…いねぇか…。100人くらいしかいねぇ小さい村だったからな、あんな100万人くらいいる帝都に比べればここに村のやつがいる確率なんて相当低いだろうな。(まてよ、そう考えたらあの広場に収まる人の数は多く見積もっても5万人。帝都の人間を全員入れるにはせますぎる。)」

つじつまの合わない事実に更に困惑しながらもホウジは冷静に分析を進める。

「(人が多すぎるから何回にも分けてやってるのか?だとしたらあの神様が降りてくる演出を何回もやっているっていうのか?あれが本当に神様ならそんな回りくどいことしねぇだろ。それぞれの家があって何やら誰かが待っているってんなら最初から家に移動させればいいのに。)」

妙に非効率的な神の所作に違和感を得る。

「(この謎を解決するためには…。)」

ナーハの入った金属の扉を見つめる。中にはなんにでも答えてくれる存在が待っているという。ここに留まっていても何も変わらない。ナーハが残したことばには後押しされホウジも自身の名前の書かれた扉を探す。

「あった…。ホウジ•ベルフィーガー、俺の名前だ…。」

自分の名前が本当に書いてあることに気味悪がりながらも重い扉をキィという音を立てゆっくりと開く。その先に希望はあるのか、虹に手を沈めゆっくりと中へ入っていく。不思議と触れた感覚は無かった。


「お待ちしておりましたホウジ様。私はこれから数日間ホウジ様の身の回りのお世話を致します、下級召使隊のイリスティア•ネクナールと申します。どうぞお気軽にイリスとお呼びください。」


笑顔の仮面をつけたメイドが1人。短髪で橙色の髪がまるで果実のようだった。




「えっと…あんたが所謂『なんにでも答えてくれる存在』ってやつ…?」

「なんでもは答えられませんが知っている限りのことは話せますよ!」

「(参ったな…まるっきり子供じゃねぇか…。)」

10歳ほどに見えるそのメイドは入り口の扉の正面側に少し離れた位置で真っ直ぐ立っていた。丁寧な口調と立ち振舞い、そして幼い見た目にホウジはすっかり警戒心を解いていた。

「えっと…そうだな、俺はホウジ。ホウジ•ベルフィーガーだ。よろしく!」

「はい!存じ上げております!あ!今飲み物をお出ししますね!何がよろしいでしょうか?」

「あ、じゃあ適当にお茶を頼む。」

「はい!」

イリスは水を沸かし始め茶葉をとりだす。居間にお茶の香ばしいかおりが広がる。

「(落ち着く匂いだ。心が静まる感じがする。)」

茶を用意しているイリスを横目にホウジは椅子に座る。

「はい、どうぞ!なにか問題あったら言ってくださいね。」

「お、おう。どうも…。」

わずかに警戒しながらもホウジは出された茶を飲む。香ばしいかおりが鼻を通り抜けまろやかな味わいが口いっぱいに広がる。

「うめぇな…!」

「よかったです!」

茶をのみ落ち着いたホウジはイリスと話し始める。

「さっそくだが色々聞いてもいいか?」

「はい!私に答えられることなら!」

「そうか、じゃぁまずは…。」

こうしてホウジはナーハがリーロンに訊いたこととほぼ同じ質問をしてイリスから同様の回答を得た。

「なるほどな…。とりあえず情報を整理しよう。まず2つの世界があって俺たちがいた世界はノープと呼ばれている。この世界はノープとは違う神の住む世界。命の泉から魂をノープに送り込み魂の循環を繰り返すことで泉全体の質を上げる。そして生命は魂と心でできていてその構造によって4つの形態をとる。凡魂、共振魂、武装魂、神魂と分かれておりこの構造の違いを魂質階級と呼ぶ。神が最初に挑発した理由は世界間の移動によって不安定になった生命の自我の崩壊を防ぐため。大体これでまとまったか?」

「はい!簡潔にまとまっててとてもいいと思います!」

「そ、そうか?」

軽く手をたたくイリスに少し照れるホウジ。しかし違和感を得ていたホウジはしばらく考え込み再度イリスに質問をする。

「まてよ、じゃあそもそもなんで神様は俺たちをノープからこの世界に移したんだ?魂の循環はいいのか?」

「それはですね!もうノープは必要ないからです!」

「……え?」

「循環によって上昇する魂の質がもうこれ以上上がらないそうなのです!なので役割を果たしたノープはもういらない、だけど中にいる生命は必要。だからこの世界に移したんです!」

「それってそのままノープに住ませてちゃいけなかったのか?」

「私も詳しいことは分かりませんがノープの維持には膨大なコストがかかるって聞いたことがあります!無駄なエネルギーは使いたくないんだと思います!」

「ずいぶん身勝手だな、神様ってのは。」

「まぁ神様ですし。」

「…そうか。まぁわかった、そういうことならこれからはこの世界で暮らすんだな?食べ物は?動物とかはいるのか?」

「ノープにあった物は大体あります!ないものは叡知の書架の記録から再現するすることもできると思います!」

「そうか、じゃあこの世界でも普通に暮らせるってわけだな。」

「はい!」

「そっか。じゃあ安心したわ~。」

緊張がほどけ椅子にもたれるホウジ。我慢していた精神的疲労感がどっと溢れぐったりする。

「お疲れですか…?寝室は2回にあります、今日はもうお休みになられますか?」

「おう、そうさせてもらうわ。色々ありがとな、イリス。」

ホウジは感謝の意を込めてイリスを撫でようと手を頭に向ける。するとイリスが一言。

「さ、『触らないでください!!!!』」

「ぐあっ!!!」

縄で身体中を縛られたようにホウジは身動きがとれなくなった。ただでさえ疲れていて油断していたところにホウジは神の力の片鱗をその身を以て知ることとなった。

「あっ!!すみません!!え、えぇっとどうすればいいんだっけ、えっとえっと…。あ、『もういいですよ!』」

「ッハァッ!!!」

ホウジは全身から力が抜けて椅子から転げ落ち床に倒れこむ。慌てて床に膝をつき介抱しようとするイリス。

「ご、ごめんなさい!!!!こんなことするつもりはなくて!!!!」

「いや、ハァ…いいんだよ…。こっちこそいきなりごめんな…。はぁ、触られるの嫌だったよな…。」

荒い呼吸を徐々に整えるホウジ。しばらく床に伏して体を落ち着かせる。

「本当にごめんなさい…。次からは気を付けます…。寝室まで運びますね。」

「いや、もう大丈夫。自分でいくよ。」

ゆっくりと立ち上がるホウジ。フラフラとした足取りをイリスは心配する。

「いえ、遠慮なさらないでください!私が悪いんですから!」

そうしてイリスは腰と肩から手をかけホウジを軽々と持ち上げる。

「おわっ!!ちょ、ちょっと!?」

「大丈夫です!すぐにベッドまで運びますから!」

「い、いや、イリスさん!?」

子供が大人を持ち上げている事実も驚くべきことだが、何よりほうじはのこどもには介抱されていることが恥ずかしかったのだ。

「(俺、こんな子供にも負けるんだなぁ…。怖ぇなぁ、神様の世界って…。)」

観念しておとなしく運ばれるホウジ。イリスの世話もあありその日はゆっくりと休むことができたホウジであった。



下級召使隊のメイド服は白黒基調の一般的なメイド服でホワイトブリムもちゃんとついています。イリスの髪型はショートボブで髪色は橙色です。

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