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第4話 ~再起動~

リーロンに率いられてナーハたちはひとつの路地に入っていった。振り返ると他のメイドたちが皆同様に人々を案内していた。殲滅軍……なんとも恐ろしい響きだ。

「道すがらに貴様らが最も疑問に思っていることを説明しよう。ここはいったいどこか、そうだろう?」

他にも訊きたいことは山ほどある。が、まずは自分達がいる場所がどこなのかを把握することが先決であることには違いない。みんな鈍くも首を縦にふる。

「では説明しよう。住居につけばどんな質問にも答えてくれる者がいる。私の説明で分からなければあとで再度訊くがよい。」

この言葉に活気づけられ人々は次第に活力を取り戻していった。疑問に思うことすべてに答えてくれる。それが本当なら自分達の抱える不安を取り除けると思ったからだ。

「まずここはどこか。結論から言うと神々が住まう真なる世界。貴様らの住んでいた世界の上位の世界。まぁ、貴様らの言うところではあの世と言った方が分かりやすいか。」

人々の間に動揺が生じる。あの世、つまり死後の世界。自分達は死んでしまったということなのか。

「まぁ、あの世といえども案ずることはない。もう少し話を聞け。次は世界の構造について説明してやる。」

横に10人ほど並んで進む我々はその言葉が信じられなかった。死んでしまった自分達、しかし死んだという実感のない意識。その違和感はすぐに拭われる。

「まずこの次元には2つの世界がある。貴様らが住んでいた世界と我々、もとい神が住まう世界。この神の世界の中に貴様らのもといた世界が存在する。神はこの人間が住む世界をノープと呼んでいる。」

ノープ…ニアライズとは違う?世界、つまり帝都のみならず他の国、土地、空間を包括した呼称ということか。神の住む世界の中に我々の住む世界…まるで鳥かごのようだ。

「そしてここからが重要だ。貴様らは正確には死んでいない。ここは確かに死したものが死後にくる世界には違いない。だが、貴様らは我らが守護神の力によって死なずにこの世界に転移してきたのだ。」

美しい黒色のツインテールをなびかせながら優雅に歩く。

転移。つまりただ移動してきただけということ。死して新しい生を受けたわけでなく、死後に魂が復活したわけでもない。ただ自分の家から隣の家に行くように、ただ移動しただけ。たしかにそれならこの世界に対する潜在的な不安と確かな命の温もりを同時に感じることにも納得できる。

「ノープで死した者の魂はこの世界にある命の泉に還元される。そして新たな命が生まれるとき、この命の泉からまた新たな魂がノープに産み落とされる。こうして魂の循環を行うことで命の泉の質を高めていっているのだ。」

命の泉…魂の質…。正直そんなすぐに理解はできないがなんとなくはわかった。

「こうして命の泉の質を高めることによって魂全体の質を向上させる。これが世界が2つある理由なのだ。」

説明を受けてしばらく思考する。2つの世界、命の泉、魂の質。筋は通っているがどこか違和感を得る。つまり神様の目的は質の高い魂を産み出すことということか?

「腑に落ちないか?だが私が言えることはこれだけだ。住居にいる者に質問しようとも同じ答えが返ってくるだろう。それでももし気になるのであれば叡知卿か繁栄の女皇に直接聞いてみるがよい。命の泉を管理しているのはこのお二方だ。まぁ、会えることなどないだろうがな。」

「(叡知卿…繁栄の女皇…。もしかして神様は1人じゃない?最初に会った神様は殲滅女王って言ってた。ニアライズ以外に国があるようにこの世界にもいろいろな国があるのかな?)」

「さて、世界の構造については理解したか。まぁわからないことがあればまたあとで訊けばよいだけだ。さぁ、貴様らの住む場所はもうすぐだ。きびきび歩け。」

同じような光景をもうかれこれ30分ほどは見ている。止めどなく流れ込んでくる受け入れがたい情報が精神を疲弊させる。皆安寧の場所を求めて広場から一定の速度で歩いていた。

そうして5分ほどさらに歩いた後、最初の広場よりは小さいが開けた場所にでた。こちらもまた円状になっていたが最初の広場と違うのは来た道以外に道がないということ。そして金属製の扉が円周上に一定間隔で並んでいたことだった。また、入り口に階段があり円は3段に重なっていた。

「ここが貴様らの生活する場所だ。それぞれの扉に名前がかいてある。自分の名前が書いてある扉を探して中に入れ。以降は中で待つ者が案内する。質問もその者にするよう。」

「(ここがこれから住む家…。って、小さい!!いや小さいって言うかこれ中どうなってるの???扉どうしの間隔が30cmくらいしかないけどこれ本当に中に住める?)」

「とにかく中に入れ。何を考えているかは大方予想がつくが入ればわかる。案ずるな。あぁそうだ、最後にひとつだけ質問に答えよう。なにか気になることはないか?なんでも訊いて良いぞ。ただし、質問は全員で1つだけ。誰でもよいぞ、はやくしろ。」

突然の出来事に人々は動揺する。我先にと全員が喋り出す。と思われたが意外なことに皆言葉を発しようとしてすぐに口を閉じたのだ。ナーハも同じだった。

「(訊きたいことは山ほどある。でも、あとでなんでも答えてくれる人がいるって言ってた。つまり今質問すべきことはリーロンさんにしか質問できないこと。いったい何を質問すべきだろうか…。)」

この世界に来てからいくつかの事柄を踏まえて人々は学んだのだ。特にこの集団は殺人事件を目撃している。下手なことは聞けなかったのだ。

「あの…。」

皆が思考を巡らせる間、ある者がついに口を開いた。

子供だった。

「ほう、貴様がこの私に質問するというのか。よかろう。質問者など誰でもよいからな。して、何を訊きたい。」

子供の口を塞ごうとまわりの人が近づく。するとリーロンが近づいた人を睨み付け、睨み付けられた人はその場で静止した。

「質問の権利を得られるのは早い者勝ちだ。私はそのつもりで言った。それとも理解できなかったか?」

怒りと悔しさと焦りの感情が渦巻いていた。皆その子供が賢い質問をすることを願うばかりだった。

「あの……その格好はなんでしてるんですか…?」

風切り音。

負の感情で満ちていた空気は風船が割れたように消えていった。もちろん疑問に思っていた者もいただろう。だが、それ以上に大切なことがいくつもあるとほとんどの者が考えていたからだ。

「(今それ訊くの!?)」

「(もっと訊くことあるでしょ!!)」

「(それあとででも聞けそうなんだけどなぁ)」

「(まぁ仮面は気になる)」

突拍子もない質問に人々は驚いていた。

「……フ。貴様、賢いな。」

リーロンの言葉にさらに驚いた。

「それが貴様の質問か。」

「だってお姉さんって兵隊さんなんでしょ?そんな格好で動きにくくないのかなって…。」

「よかろう、ならば答えよう!!!!この服装は陛下より賜りし至高の衣装。素晴らしいデザインであることは然ることながら機能性も抜群だ。貴様らには分かることはないだろうな。なぜならこの衣装を着ることはすなわち殲滅軍に入り陛下への忠誠を誓うということ。そして!!殲滅軍に入ることは容易ではない。とてもじゃないが貴様らが入れることなど考えられないな。」

これが軍の制服ということか。制服がメイド服なのもきっと我々にはわからない深い理由があるのだろう。

「ちなみにこのデザインは陛下の趣味だ。」

陛下…。

「そしてこの仮面は…すまない、どのような質問にも答えると言った手前申し訳ないがこの仮面についてはあまり答えられない。今言えるのはこれも殲滅軍の軍の衣装の一部ということだけだ。」

一番気になっている部分が明かされなかった。きっと言えない理由があるのだろう。

「まぁ、どうしても知りたければ力ずくで訊きだせ。それが可能ならばな。」

謎は深まるばかりだ。分かったことは仮面にメイド服は殲滅軍の制服ということ。そしてリーロンの神様への忠誠心が高いということ。

「これでよいか?童よ。」

「うん!お姉さんありがとう!」

「フフ、良い。」

このリーロンなるメイド、冷徹に見えてどこか感情的だ。

「では、これにて貴様らの案内を終える。特級召使隊長リーロンが担当した。それではさようなら。」

リーロンはスカートを少し持ち上げて礼儀正しくお辞儀をして去っていった。

「えっと…。」

「おい、なんだよこれ!?」

「まるで意味がわからんぞ!」

監視者の退去を皮切りに今まで我慢していた分この場にいる全員が口々に思い思いのことを話していった。

「なんだよあれ!?やばすぎんだろ!」

「勝てるわけねぇよふざけんじゃねぇよ!」

「てかさっき人が死んだぞ!?首を切られて!」

「なんだよ殲滅軍って、神様とかノープとか言われてもわかんねぇよ!!」

逆らえば死。そんな状態をずっと保っていたのだ、みな少し錯乱状態であった。

一方ナーハは。

「教えることができない理由…あの仮面にはなにか秘密がある…。それと神様、メイド、2つの世界。そして…兄さん…。」

ナーハは冷静さを保っていた。年齢故の好奇心の高さか以外にもその精神は頑丈だった。

「だめだ、考えてもわからない。これをどうにかするには…。」

ゆっくりと歩く。円周に沿ってひとつひとつ確認する。中央で騒がしくしている人々をおいてナーハは自分の扉を探していた。

「お、おい。なにしてんだ。」

「ホウジさん。ずっとここにいても仕方ないですから自分の部屋に行こうと。」

「でもあんなとんでもないやつらの言葉なんて信じられるか?きっと扉を開けたら罠があって殺されるに違いない!」

「ホウジさん、もし殺すことが目的なら最初のところで派手に皆殺しでしょ?」

「た、たしかにそうだな…。」

「それに、どちらにせよここにいてもなにも変わらない。なら、僕は行くよ。」

「おい、気を付けろよ。俺も一緒に行こうか?」

「いや、いいよ。違う人の家にはいったらそれこそ殺されるかもよ?命令には従わないと。」

「ひっ、そ、そうだな。うん、気を付けろよ…。」

ホウジはそう言ってナーハの扉まで同行した。ナーハの扉は1段目の中央、入り口の正面にあった。

「ここが…。」

「ナーハ、何かあったらすぐ戻ってこいよ!」

「大丈夫、ありがとうホウジさん。じゃあまたね!」

そう言ってナーハは自身の名前の書かれた扉を開けた。




「叡知卿。」

「む…殲滅か…。余に何か用か。」

「お疲れか?急用ではない、後にするか?」

「よい。丁度余も暇をもてあましていたところだ。なんだ。」

「ノアの子が余の領域に現れた。」

「……そうか。運命とは数奇なるものだな。それともこれは必然であったか。」

「…………。」

「まぁよい、皆に伝えておく。次の指示はまとまり次第伝える。」

「感謝する。」

叡知卿はバチバチのおじいちゃんです。

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