第3話 ~格の違い~
「星の子らよ。破神せよ。」
軍服の少女はそう言い残して帰っていった。
恐ろしくもどこか美しい、不思議な存在。あれが神というものか。軍服のようなドレスのような黒い服、仮面に手袋と長い軍靴。神は素顔も素肌も露にしないらしい。
「それにしても神を打ち倒す方法なんてあるのかな?体を鍛えても勝てる気がしないんだけど…。」
肉体をいかに鍛え上げたところで言葉ひとつ発するだけで圧倒できる存在に勝てるわけがないのだ。しかし軍服の少女は言っていた。打ち倒してみろと。ならばなにかしらの手段があるはずだ、でなければ神があんなことを言うはずがない。
そう考えに耽っていたとき最初に言葉を発したメイドが再度動いた。
「静粛に!!!!」
突然知らない場所につれてこられた上に突拍子もないことを告げられ人々は皆戸惑っていた。周りの人たちと意見を交わす者もいれば一人で騒いでいる者もいた。神を名乗る者が突然現れればこうなるのも仕方がない。むしろこうならない方がおかしいまである。
しかし、驚いたことに広場にいた全員がメイドの言葉に応じて黙ったのだ。
「ふん、今度は一度で黙ったか。学びのある者たちでなによりだ。陛下もお喜びになられるだろう。」
服の擦れる音がする。
「今からお前らのこれからの行動を指示する。我が名はリーロン、このメイドたちを率いる特級召使隊長である。黙って従うよう。」
「あ、あの!あなたたちは一体!?」
一番前、メイドの正面に立っていた男の首が飛ぶ。
「勇敢であるということは時にその身を滅ぼす。それともただの愚か者であったか。愚者に与える慈悲はないと言ったはずだ。」
あたりは騒然とする。首を飛ばされた男の付近にいた者の中には気絶し倒れる者、恐ろしさのあまりその場に倒れこむ者、泣き叫ぶ者もいた。声を荒げる者は既に正気ではないと思われた。しかしメイドが一瞥すると何かに拘束されているかのように静かになった。
そしてその様子を近くで見ていた者から始まりこの出来事は広場のすべての人に伝わっていった。
「そんな…ひどい…!」
偶然にもナーハはその近くにいた。直接死ぬ様子見てはいないが床に伏した首のない死体とそばに転がる頭は見えたのである。
「頭が…ない…!首を切られたの???一体どうやって…!ていうか、血がでてない…!?」
メイドが動いた様子はなかった。これは多くの人がそのメイドに注目していたから間違いないだろう。不思議なのはまるで見えない何かに首を切られたことと切られた首から血がでていないことだった。首は不自然なまでにきれいに切られており断面は真っ黒だった。
「不本意ではあるがこれで他の人間どもも分かったであろう。言ったことには従え。少なくとも貴様らの魂質階級が私たちを越えるまではな。」
「(コンシツ…?なんのことだ?)」
「陛下は恐怖による支配がお嫌いである。ゆえにこのような手段をとるのは私としても非常に不本意である。だが、愚か者は恐怖でのみ支配できると仰ったのもまた陛下。ならば陛下にとって最もよい結果をもたらす選択を私はしよう。お互い不愉快なだけだ、今後は私たちの言うことには従うように。」
メイドはそう告げしばらくうつむいていた。その様子からは先の発言に嘘偽りはなく真に心から人間の従順を望んでいるようだ。
「話を戻そう。これから貴様らはそれぞれの住居に移動してもらう。案内は我々《殲滅軍:特級召使隊》が行う。いくつかの人数に分けて案内するため時間がかかる。指示があるまで自由にしてて良いがこの広場からは離れぬよう。また、我々の指示には適宜従うよう。以上。」
住居?家ということか?もとの世界には戻れないのか?
とにかく今はメイドの案内を待つしかなかった。不思議と不安はなかった。
メイドの言っていることは大体理解できた。我々にはそれぞれ用意された住居がありそこに案内するためおとなしくしていろということ。それと逆らったら死ぬということ。神が絡んでいる割には人々の案内方法がずいぶんと非効率的なのが気になるところである。この世界に我々を移転させる際、最初からその住居に移転させていればよかったのでは?できなかったのか、それともそうしなかった理由があるのか。考えていても仕方がない、機会があれば訊いてみよう。
「ではまずは私の前にいる者たちから。私の名前はリーロン。ほんの少しではあるが貴様らを案内するため行動を共にする。私の手を煩わせることのないよう。」
人々の間に緊張が走る。当たり前だ、先ほどの惨劇を見せつけられては腹がいたくなるほど緊張すると言うものだ。
「突然こんなことになり困惑しているのはわかる。訊きたいことが山ほどあるということも理解している。質問はあとで受け付ける。だから黙って従ってくれ。頼む…。」
先ほどは打って変わって比較的低姿勢な態度に困惑しつつも忘れられぬ恐怖が背中を押す。リーロンの言葉を信じて人々はおとなしく従うのであった。
「名前を呼んでゆく。呼ばれたものから前へでるよう。」
一人、また一人と呼ばれて前へ行く。
「ナーハ。」
「は、はい!」
「ナーハ…。そうか、おまえがナーハか…。」
「あ…(質問したらひどいことされるかな…?)」
「ふむ、あとで指示を仰ぐか…。」
「(指示!?なんの指示!?やっぱり死ぬの僕!?やだあああ!!)」
「その顔、処されるか心配なようだな。案ずるな、その程度は手は出さん。それに子供は大事に扱えと仰られたのもまた陛下。行け。」
「は、はい!(僕大人ですよ??????15歳ですよ?????)」
不安と不満を抱えながら先に呼ばれた人たちと合流する。
「次、ホウジ。」
そうしてまた一人ずつ呼ばれていった。100人程集まったところで呼名は終わった。
「うむ、素直に従ってくれたおかげで想定より早く済んだ。良いことだ。では住居へ向かう。ついてこい。」
動くはずのない表情からはどことなく安堵の感情が伝わってきた。吸い込まれそうなほど真っ黒はその眼の奥では何を考えているのか。それも訊いて答えてもらえるのだろうか。とにかく今は黙ってついてって質問の機会を伺おう。ていうかその仮面なに?神様の趣味?
特級召使隊は「とっきゅうメイドたい」と読みます。




