第2話 ~破神~
「ん……」
軽く麻痺した半身に力をいれ起き上がる。
「ここは…?」
何が起こったのか理解できずとりあえずあたりを見回してみると見慣れない景色が広がっていた。
「ここは…街?ニアライズとはちょっと違うような…」
紅色のレンガでできた建物や薄暗いランタンのつるされた街灯。街並みこそよくあるものだが話にきいていた雰囲気とはなにかが違う。そう感じさせるような違和感があった。
そして目を覚ましてから意識がはっきりするころ、ある路地から比較的明るい光と人の声がするのが確認できた。
「あっちになにかあるのかな?怖いけど、いってみよう」
突然の出来事に戸惑いつつも現状をどうにかすべくとにかく行動にでてみる。自身が覚えている最後の記憶、一瞬にして襲いかかってきた厄災の数々、そして兄の…。
「よっと。あれ!?」
路地から抜け出し広場のような場所にでた。そしてそこでみたものは多くの人だかりだった。
「とてもたくさんの人がいる…。何万人いるんだ…?」
あの細い路地からは考えられないほど広い場所に今までみたことないような数の人が集まっていた。
「あ、あれホウジさんじゃない?カイノさんもいる!」
人だかりの中には知っている人の存在も見受けられた。どうやら村の人もここにきているらしい。
「ていうことはここにいる人はもしかしてニアライズの人たちかな?確かに都心のほうは人がいっぱい住んでるからニアライズの人がみんなきてるならこんなにいっぱいの人も理解できるね。」
とりあえず知っている人に話しかけようと人だかりに近づくと中央のほうになにやら不思議な存在がいることわかった。
「あれは…仮面をつけたメイド…たち?」
広場の中央に二重の円状の台座があり、その1段目の上に2段目を囲むように笑顔の仮面をつけたメイドたちが並んでいた。
「なんて…不気味なんだ…。」
不気味。寸分の狂いもなく円状に綺麗に並んだメイドたちはただそこに立ち、笑顔の仮面越しにこちらを見つめているその光景はまさしく不気味であった。なによりそのメイドのすべてが同じ格好をしていることが何よりも心を不安にさせた。
「よいしょっ…あのっ!ホウジさん!」
「ん?おう、ナーハじゃねぇか。やっぱりおまえもここにきてたんだな。」
「あ、あの!ここはどこですか?」
「あーここがどこかってのは俺もわかんねぇんだ。俺もさっき起きたばっかでな。いきなりとんでもない大雨が降ったかと思ったらこんなとこにいたんだよ。」
「そうですか…。じゃああそこのメイドさんたちはなんだかわかりますか?」
「さぁな。まぁおそらくここのやつらだからここで待ってりゃそのうちなんかあんだろ。なにかを待っているようにも見えるしな。しっかし不気味ったりゃありゃしねぇ。なんだあの仮面は気味悪ぃ。」
「そうですね…。」
他の人もここについてなにも知らない。様子を見る限りほとんどの人がそのようだ。
メイドたちからなにかあるまでしばらくここで待つことにした。待っている間はホウジさんやまわりにいた都心部の人たちと会話をしていた。そうしている間にも続々と回りの細道から人が出てきてはこの人混みに合流する。
そうして1時間ほど経過したとき、メイドのうちの一人が動き出した。
「静粛に!!!!この領域を治めし我らが主である陛下のおなりである!!!!」
「陛下?」
「領域ってなんのことだ?」
メイドの発した言葉とは裏腹に人々はさらに騒がしさを高まらせていた。
「……『静粛に。頭をたれてその場にひざまずけ。』」
メイドの口から再度言葉が発せられた後、その場にいた全員が床にひざまずいた。なにか本能に訴えかけるような、抗えない圧倒的な力で押さえつけられているような感覚だった。息をすることさえ困難だった。
「同じことを2度もいわせるな。陛下は寛大である。ゆえに1度は見逃してやろう。だが2度はない。愚者に与える慈悲などないと思え。」
誰もが眉ひとつ動かすことができないままメイドの話をきいていた。あのメイドたちは絶対に逆らってはならない存在というのが認識できた。
「『面を上げよ』」
体から力が抜けその場に伏してしまった。皆戸惑いながらもまたこの苦痛を味わいたくはないため誰もが口を塞いでいた。
「これからおはしますは我らが主。創世の時代からこの領域を治めたりし守護神が1柱。《殲滅女王》メイ陛下である!!!!」
メイドが言葉を発したと同時に上空に穴が開き軍服のような格好をした銀髪のツインテールの少女が降りてきた。一瞥するだけで神だと解る、そのようななにかがその少女からは感じられた。その少女の脇には騎士の格好をした少女が両側に2名ずつ並んでいた。全員がメイドたちと同じ仮面をつけていた。それとも逆なのか。
台座の上に少女が降り立つ。広場は静まり返り誰もが緊張をしていた。しばらくした後、軍服の少女は両手を開き演説を始めた。
「諸君!!!!ようこそ余の領域へ。余は諸君を歓迎する。余の名はメイ。殲滅の称号を冠するこの領域の守護神である。さて、諸君にここへきてもらった理由はただひとつ。力をつけてもらうためだ。諸君はこの場所へきた時点で強くなる手段を得ている。先刻、余の部下が諸君を平伏させたと思う。あれは特別な力でもなんでもない。魂の強さの違いゆえの格の違いだ。諸君は鍛練によって余のメイド、直属部隊、近衛騎士、果てにはこの余ですらをも凌駕する可能性を秘めている。星の子らよ!!!!この余を打ち倒して見せよ!!!!さすれば大いなる力を授けよう。」
軍服の少女はひとしきり話を終えたあと手を腰の後ろに当て立ち尽くしていた。
正直何がなんだかわからない。殲滅女王?星の子?いったいなんなんだ。いきなり知らない場所につれてこられてわけのわからないことを言われてどうしろというのだ。打ち倒す?あいつを?無理に決まってる!あんな見るだけで心が押し潰されそうになるほどの威圧感を得る存在に勝てるはずがない。メイドたちですら恐ろしいのに。それにあいつの目的はなんだ?自分を倒させてなんのメリットになる?神様は暇なのか?
そう思考を繰り返していると軍服の少女がこちらを見ているのがわかった。他の人かと思ったがどうやら自分を見ているらしい。
「…………フ。」
笑った。確実に、自分のことをみて笑った。不気味な仮面をつけているため表情などわかるはずもない。だが、確信できる、あいつは自分のことをみて笑ったのだ。一体なぜ?僕がなにをした?死ぬのか?
「それでは星の子らよ。諸君の健闘を祈っているぞ。あぁそれとひとつ。地上の厄災を起こしたのは余である。憎いか?ならば打ち破れ、余を、神を打ち倒せ。破神せよ。」
そう言い残し騎士と軍服の少女はまた穴に戻っていった。
いったいどうなっているのだ。まだ状況が把握できない。できるはずもない。
だがひとつだけ理解できた。あいつは地上をひっちゃかめっちゃかにした張本人。わざわざ挑発するほどにあの厄災には意味があるらしい。そして多くの人たちはその言葉に感化され神を打ち倒すことに意気込んでいた。
「なにが神だ!!俺たちの街をめちゃくちゃにしやがって!!!」
「そうだ!あんなふざけたやつぶっ飛ばしてやる!!」
「ええ、許せないわ。絶対に許せない!!!!」
神を打ち倒す。本当にできるのだろうか?何より目的が見えない。破神…。あいつはそう言い残して消えた。ならば疑問の答えはその先にあるのではないだろうか。そう考えてしまうのもあの神の狙いなのだろうか。わからない。どんなに思考を巡らせてもこの脳の思考力では解に至らなかった。
これは終わりの始まり。長い永い時をかけ、約束を果たすために神々は奔走する。神を打ち破り自由を手に入れる。この演説は破神大戦の始まりの始まりに過ぎないのであった。
「ついに始まったか。皆の者、使命を果たすよう。」




