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けれど。
振り返った駒沢通りにトラックはなかった。ただ耳をつんざくクラクションの爆音だけが、前回と同じ。
「なんだ……?」
トラックはいない。なのになぜこんなにクラクションが? 通りを埋め尽くす全ての車が怒りに任せて叩き出している、そのくらいの爆音だ。
「動いてる車がない……」
唖然とした。駒沢通りの通行が完全にストップしている。
「ウソだろ……?」
たしかに僕はあいつに頼んだけど。駒沢通りを止めてくれって……でも、まさか……?
混乱の根源を探して、僕は通りに目をこらす。ヘッドライトが眩しい。その光の中に、「おーい」と大きく腕をふる男がいる。
「優磨ぁ、本当にこれ、大丈夫かよ?」
一見チャラチャラした風貌で。僕のこと学級委員長に推薦した憎らしい奴で。でも、一番困ってる時に助けてくれて、僕の親友で――。
「本山……マジ……?」
「マジ、じゃねーよ!! お前の言う通りに道を塞いだんだからな!! 責任はお前がとれよ!?」
いったいどうやって? と呆けると、本山が胸を張る。
「ちょうどクラスの連中とこの近くで集まってたんだよ。だから優磨も呼んだんだけどな。まぁ、要するにそいつらに人の鎖になってもらって、今向こうの横断歩道を塞いでるとこ」
「な、なんだよ、それ……」
「俺の人徳も捨てたもんじゃねーだろ、委員長?」
いつもの軽い笑顔。
「いや、そんなことよりさ、あいつらもビビってるからなんとかしねーと。で、これからどうすりゃいいんだ? おい、優磨?」
本山の声が遠くなる。
――助かった……今度こそ、本当に。
お父さんと、賢都と、本山のおかげで。
――困難に立ち向かうなら、一人より、二人だ。
荒坂先生、ちょっと悔しいけど、先生の言う通りでした。
僕は安堵のあまりその場に倒れ込んでいた。
今さら痛みが襲ってくる。
そういえば殴られて頭まで蹴られ、満身創痍だったんだ。
気づいた途端、痛みが意識をかすめとっていく。
「優磨っ!!」
涼乃の悲鳴が聞こえた。
膝をついてよろけながら、涙をためながら、涼乃が僕に近づいてくる。
「ゆうまぁ……! ありがとう……ありがとう!」
僕は地に転がり天を仰いだまま、彼女の言葉を受け止めた。
あぁ、僕はちゃんと涼乃を救えたんだ。
涼乃と、生き残ることができたんだ――。
空は暗い。都会の夜には星が瞬かない。けれど、僕には天から光が降るのが見えていた。きらきらと、僕たちを祝福するように。
その光に、優しい声がとけている。
――よく頑張りましたね。
あぁ、空色電車の中でもそう言っていた。
――私ができなかったことを、あなたは成し遂げてくれた。
なんでだろう。懐かしくて、無性に泣きたくなる。
――これからはあなたを見守ることはできないけれど。でも、もう大丈夫ですね。
死神というには、あまりに優しい声で。
――さようなら、優磨くん。私ね、あなたのことを心から愛していましたよ。