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死神が僕にくれた幸福な運命  作者: 風乃あむり
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19


 けれど。


 振り返った駒沢通りにトラックはなかった。ただ耳をつんざくクラクションの爆音だけが、前回と同じ。


「なんだ……?」


 トラックはいない。なのになぜこんなにクラクションが? 通りを埋め尽くす全ての車が怒りに任せて叩き出している、そのくらいの爆音だ。


「動いてる車がない……」


 唖然とした。駒沢通りの通行が完全にストップしている。


「ウソだろ……?」


 たしかに僕は()()()に頼んだけど。駒沢通りを止めてくれって……でも、まさか……?


 混乱の根源を探して、僕は通りに目をこらす。ヘッドライトが眩しい。その光の中に、「おーい」と大きく腕をふる男がいる。


「優磨ぁ、本当にこれ、大丈夫かよ?」


 一見チャラチャラした風貌で。僕のこと学級委員長に推薦した憎らしい奴で。でも、一番困ってる時に助けてくれて、僕の親友で――。


「本山……マジ……?」


「マジ、じゃねーよ!! お前の言う通りに道を塞いだんだからな!! 責任はお前がとれよ!?」


 いったいどうやって? と呆けると、本山が胸を張る。


「ちょうどクラスの連中とこの近くで集まってたんだよ。だから優磨も呼んだんだけどな。まぁ、要するにそいつらに人の鎖になってもらって、今向こうの横断歩道を塞いでるとこ」


「な、なんだよ、それ……」


「俺の人徳も捨てたもんじゃねーだろ、委員長?」


 いつもの軽い笑顔。


「いや、そんなことよりさ、あいつらもビビってるからなんとかしねーと。で、これからどうすりゃいいんだ? おい、優磨?」


 本山の声が遠くなる。


 ――助かった……今度こそ、本当に。


 お父さんと、賢都と、本山のおかげで。


 ――困難に立ち向かうなら、一人より、二人だ。


 荒坂先生、ちょっと悔しいけど、先生の言う通りでした。


 僕は安堵のあまりその場に倒れ込んでいた。


 今さら痛みが襲ってくる。

 そういえば殴られて頭まで蹴られ、満身創痍だったんだ。

 気づいた途端、痛みが意識をかすめとっていく。


「優磨っ!!」


 涼乃の悲鳴が聞こえた。

 膝をついてよろけながら、涙をためながら、涼乃が僕に近づいてくる。


「ゆうまぁ……! ありがとう……ありがとう!」


 僕は地に転がり天を仰いだまま、彼女の言葉を受け止めた。


 あぁ、僕はちゃんと涼乃を救えたんだ。


 涼乃と、生き残ることができたんだ――。


 空は暗い。都会の夜には星が瞬かない。けれど、僕には天から光が降るのが見えていた。きらきらと、僕たちを祝福するように。


 その光に、優しい声がとけている。


 ――よく頑張りましたね。


 あぁ、空色電車の中でもそう言っていた。


 ――私ができなかったことを、あなたは成し遂げてくれた。


 なんでだろう。懐かしくて、無性に泣きたくなる。


 ――これからはあなたを見守ることはできないけれど。でも、もう大丈夫ですね。


 死神というには、あまりに優しい声で。


 ――さようなら、優磨くん。私ね、あなたのことを心から愛していましたよ。


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