7
その晩、僕は金縛りにあった。
夜中に突然目が覚めて、意識は覚醒しているのに体が動かない。これが金縛りかとぴんときた時、視線のはじっこに人の陰が見えた。
幽霊だ。
はっきりとしない輪郭。ぼんやりとした気配。間違いなく幽霊だと思った。
怖くはない。
だって懐かしい気がして。
――お母さんがついに迎えに来てくれたんだ。
僕と一緒に死にたかったお母さん。一人ぼっちで川に沈んでいったお母さん。
一度思い出すと、お母さんのことしか考えられなくなってしまった。
――寂しかったよね。ごめんね一人にして。僕も一緒に……。
「やぁ、久しぶりですね、優磨くん」
ところが、その気配は男の声を発した。
幽霊にしては鮮明な声で僕に呼びかける。ずいっと僕の顔をのぞきこんできたのは、あのアフロ頭の死神だった。
「ついに運命の女の子に会えたんですねぇ、おめでとうございます」
へらへらと笑いながら手を叩いている。拍手のつもりなんだろう。
「可愛い女の子ですね、夏原さん。あんな少女が短命だなんて、本当に信じられませんねぇ」
にたり、と死神は意地悪く笑った。
陰湿で暗い笑みだ。自分の顔を覗き込んでいるこの男は、まさに“死”そのものだった。人の死を待ち望み、喜ぶ、死の世界の神様。
まだ体が動かない。僕はぱくぱくと口を動かした。
(大丈夫だよ。僕が彼女を守ってみせるから)
声は出なかったのに、死神には僕の言葉が届いたようだった。
「そうですね、そのためにあなたを蘇らせたんですから。約束は守ってもらいますよ」
(うん、もちろんだ)
いちいち念を押しにこなくても分かってるよ。
僕のこの命は、彼女に捧げるためのものだ。
「約束を忘れていなくて安心しました」
アフロを揺らしながら、死神は楽しげに僕の耳もとに口を寄せた。
「まずは彼女とお友だちになりなさい。そばにいないと守れないんですから。なんでもいいから接点を作るんです」
(うん)
「仲良くなって、いつでも近くにいてあげなさい。私との約束を果たすために、ね」