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そうだ、僕がしっかりしないと。
涼乃を助けられるのは僕だけなんだから――!
「おい、お前も黙ってろよ腕とか足くらいちょっと切ってやってもいいんだぜ!」
ナイフの男が腕に力を入れる。つきつけられた凶器が涼乃の悲鳴を殺した。
――ふざけんな、やめろ!!
なんとか立ち上がる。ダメだ、クラクラする。まともに歩けない。
でも。
間違いない。
今だ。
今なんだ。
今こそ僕は涼乃を守らなきゃいけない。
そのために、僕は生きてきたんだ――!!
「うおおおおっ!!」
あらん限りの力で叫んだ。ひるんだ美大生風が一瞬動きを止める。その隙をついてナイフの男に飛びかかる。
あのナイフさえ封じられれば――涼乃は逃げられる!
その瞬間だった。
すさまじいクラクションの音がいっせいに鳴り響いた。
テールランプが列をなす駒沢通りから、一台の大型トラックがこちらに突っ込んでくる。スピードを一切緩めずに。
ウソだろ――?
入り口に放り出した僕の自転車がたやすく潰され引きずられた。火花が散る。通行人から悲鳴が上がる。
全ての動きが不自然に歪められ、やけにゆっくりと時が流れた。
トラックが向かうのはミニバンで――、
その扉の中に、まさに今、
涼乃が、押し込まれるところで。
ナイフを封じさえすれば、涼乃を助けられると思ったのに。
「うああああああ!!!!」
その刹那。
本能が僕の全身を勝手に動かした。
跳躍する。腕が伸びる。
僕は涼乃を引きずり出した。乱暴に。なりふりかまわず。
彼女の腕をつかむ。バットを振り回すみたいに容赦なくその体を背後に放り出した。
アスファルトに投げ出された涼乃を、僕の瞳がしっかりとらえた。
涼乃と目が合う。
その目が、なにかをうつして絶望に染まる。
それが、
僕の瞳が映した最期の光景だった。
耳をつんざく爆音とともに、視界が刹那に暗転する。
体を粉砕するような衝撃を感じた――そんな気がしたけれど。
その感覚さえ、すぐにぷっつりと切れてどこかへかき消えてしまった。




