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「涼乃っ!!」
僕の声に涼乃がはっと顔を上げる。その隣にモモちゃんもいる。男たちには誰一人見覚えがなかった。僕たちよりはずいぶんと年上――大学生か、それ以上に見えた。
弾き飛ばすように自転車から降りて、僕は涼乃のもとへ駆けた。涼乃は僕に気付いて目を見開くと、涙を浮かべてぷるぷると首を振った。
なんだ? どうしたんだ?
「あ? お前だれだよ?」
声を上げたのは男の中の一人。四人いる男たちの中で一番太って小柄だった。金髪にメガネでいかにもなチンピラ。
「あれ、モモちゃん、こんな男呼んだの? そんなことしていいって言ったっけ?」
やわらかい、けれどどこか凄みのある声でモモちゃんに語りかけた男は、すらりと長身でオシャレな服装だった。美大生のような、洗練された雰囲気をまとっている。
モモちゃんと涼乃は並んでいて、その後ろにぴたりと二人の男がくっついていた。
「よ、呼んでません……偶然じゃないですか?」
モモちゃんはガタガタと歯をならしながら、苦し紛れの返答をした。美大生風の男を見上げる。
「それより、う、後ろのナイフをしまってください……怖くて歩けません」
ナイフ? 僕はもう一度二人の背後の男たちを見た。彼らは手もとをタオルで隠している。その中にちらりと銀色の鈍い光が見えた気がした。
そういうことか。こんな車通りの多い道のすぐそばで、涼乃たちが助けもよべず、逃げ出しもせず、男たちに囲まれたままになっている理由が。
「へぇ〜モモちゃんはガキくさいのに頭が回るね。そうやってあいつにナイフの存在を教えてやったんだ?」
美大生風が目を見開いてモモちゃんの顔をのぞきこむ。彼女は必死で首を振り、かばうように涼乃が声を上げた。
「優磨を呼んだのは私よ。モモちゃんは悪くない。だからせめて彼女だけでも離してあげて!」
ふぅん、と美大生風の男が僕をじろじろと見る。涼乃に問いかけた。
「あいつは君のなんなの?」
「私の彼氏です。だからモモちゃんには関係ない!」
くははは、と男たちは腹を抱えて笑い出した。
「ネットで話題の“スズちゃん”のカレシがこいつ!? こんなチビで冴えないガキ!?」
金髪の小太りが僕を指さした。
「“ヤりたい女の子”なんて人気になってる美人JCが、こんな男と付き合ってんの!?」
僕の内側で怒りが沸騰した。
クソみたいな卑猥な言葉を涼乃に向けやがって――!
「そうだよ、僕は彼女の恋人だ! も、もう警察を呼んである!! お前ら、とっとと逃げた方がいいぞ」
「はっ、嘘つくんじゃねーよ。今ここに現れたくせに」
小太りが嘲笑い、それにクラクションの音が重なった。
駐車場の入り口近くに停まったミニバンから、髭の男が顔を出す。
「おい、はやく女たちを車に乗せろよ。そんな中坊、殴って黙らせればいいだろ」
血の気がひいた。まだ仲間がいたのか。しかも車はまずい。あれに涼乃たちを連れ込まれたら、もう手のうちようがない。




