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意識の全てを縫いつけられ、僕は粛然と彼女を見つめた。
これまで会ったどんな女の子よりきれいだ。
長身で、すっと天に伸びる百合のような姿。黒髪は長くつややかで、春の風にさらさらと揺れていた。
ひたいの輪郭はやわらかい丸みを帯びて、かと思うと鼻は高く立ち、唇はふっくらと桃色にぬれている。
そして鋭い眼差し。
びっくりした。
短命な女の子だって死神が言っていたから、僕は勝手に儚げな少女を想像していたんだ。
彼女のたたずまいには、やわやわしたところが一切なくて、まるでひんやりと硬い金属みたいだった。
「おい、いったいどうしたんだ?」
集まってきた先生たちが彼女を取り囲んで尋ねた。彼女は静かに答えた。
「馴れ馴れしくて不快だったので、一発殴ってやりました」
キンと冷えるような声だった。堂々と、斬り捨てるような物言いだった。
「なんだその態度は」
「いきなり暴力を振るうなんて」
先生たちは怒ったり狼狽えたり。
それでも彼女は動じない。落ち着いているというよりは“不遜な”と表現した方がよさそうな表情で、とても僕と同じ新入生には見えなかった。
「あなた名前は? どこのクラス?」
気の強そうな女の先生に詰め寄られても、彼女は臆することなくこう答えた。
「夏原涼乃。クラスは確認してません」
――なつはら、すずの。
胸にその名がりんと響く。
幼い頃、死神に予言された僕の“運命”。その運命が、明確な名前をもって、僕の前に現れたんだ。
――夏原、涼乃さん。
眼差しに力を込めて、彼女を見つめた。
――僕が君を守るんだ。