3
七月、僕はスマホを買ってもらった。高校受験に向けて塾の帰りが遅くなることを心配した山丘の両親がほとんど強制的に契約してくれたのだ。
申し訳なさはあったけど、スマホは僕の生活に新鮮なぬくもりを与えてくれた。
夜、ベッドの中で涼乃と「おやすみ」とやり取りをする。朝起きたら「おはよう」とメッセージをかけあう。
そんな日課が嬉しかった。
八月、夏休みに入って僕は受験勉強に打ち込んだ。涼乃はスポーツ推薦で都内の女子校の合格が内定していた。共学じゃなくてよかった別の男にとられずにすむ、と胸を撫で下ろしていたんだけど、そんな僕にモモちゃんが釘を刺した。
「山丘君、考えがあまーい! 涼ちゃんみたいなイケメン系女子、女の子にもモテるに決まってるじゃん!」
た、たしかに。やっぱり僕は頑張って、もっと涼乃の恋人にふさわしい男にならないと。
九月、文化祭を楽しんだ。三年生はゲスト参加だけなので、涼乃と二人で校内を回った。
もちろん、想い出の場所にも二人で立った。
「ここで山丘君が告白してくれたんだよね」
中庭は一年前と同様、紅葉の明るさに満たされていた。
「僕、強ーい決心で、ものすごーくドキドキしながら告白したんだよなぁ」
「そうだったの?」
「もちろん。君と恋人になるわけにはいかないって、理屈では分かってたのに、それでも好きって言っちゃったんだよ」
僕は大袈裟にため息をついてみせる。
「それなのに涼乃ってば、“無理やり告白させた”なんて思い込んでさ、ひどいよ」
「ごめんごめん。でもそれは山丘君が冷たくするから」
その話になると僕は弱い。
「それは本当に本当に本当にごめんなさい!」
「あはは、だからこの話はもう終わりにしよう。今、こうしてちゃんと恋人同士なんだから」