20
僕は全て涼乃に話してしまった。
死神に与えられた運命のことを。
涼乃が死ぬか、僕が死ぬか。
そのどちらかしか選べないことを。
けれど、彼女はちっとも運命を恐れていない。
「すぐ死ぬ女の子、なんて言われると、意地でも長生きしてやろうって思うね」
二子玉川公園からの帰り道、彼女は意気揚々とそう言った。
僕は涼乃の手を握る。強く、絶対に離れないように。
「うん、だから気をつけて」
「気をつける。私、絶対に死なないよ。優磨のことを死なせたくないから」
つないだ手のひらは少しかたい。竹刀を握ってできたマメが愛しい。
改めて思う。僕の好きになった女の子は、たくさんの傷を乗り越えた、頼もしくてカッコいい女の子だ。
「簡単に死なないよ、私。こんなに強いし、しぶといし」
夕焼けが玉川の水面を橙に染めていた。駅前のビルも光をはじいて明るい。
世界は、優しい色に満ちている。
人ごみにもまれながら田園都市線に乗ると、すぐに電車は地下にもぐる。
車窓にうつる涼乃は眼光鋭く宙をにらんでいた。
「とにかく二人で生き延びよう。もし優磨が私をかばって死んだりしたら私も後を追ってやるからね、そのつもりでいてよ」
「え!? それはダメだよ!」
「私を死なせたくなかったら優磨も死んじゃダメってこと」
唸るようにうなずいた。
たしかに運命に屈するつもりはないけど、それでもなにが起こるか分からない。死ぬなら僕だ。そのつもりだったのに。
「優磨、覚悟を決めて。二人で死ぬか、二人で生きるか。私たちが選べる道はそれだけ」
「二人で死ぬか、二人で生きるか……?」
のしかかった肩の荷が、不意に重さを変えてしまった。
困ったなぁ。
本当に君はかっこいい。
僕がずっと縛られてたルールを簡単に変えてしまった。
僕はずっと君のヒーローになりたかったのに。
悔しいな。君はもう間違いなく僕のヒーローだ。
「その死神は、優磨の命で私を救えって言ってたんだよね? ということは多分、私の死因は病気じゃないね」
用賀駅で降りる。地上に出て、すり鉢状の駅前広場を登っていく。
「病気だったら優磨に救えるはずないもんね。ガン検診とか受けた方がいいかなって思ったけど、それは必要ないかな」
「そんなことまで考えてたの」
「もちろん。考えられるのは事故か、災害か……殺人? あー殺人はあるかもしれないな。けっこう色んな人に喧嘩うってきたし。言い寄ってきた男の先輩とか、口だけ達者な剣道部員とか」
ずいぶん物騒な話になってきたぞ。
いや、中学生が自分の死因を推理してる時点で物騒なんだけど。
「やっぱり僕、鍛えた方がいいな。君になにがあっても守れるように」
「違うでしょ。私と、自分の身を守れるように、でしょ」
そうだった。ゲームのルールは変わったんだ。涼乃の力で。
「私は常に竹刀持って歩こうかな。武器さえあればそんじょそこらのやつには負けない自信があるんだ」
「うん。でも不審者になるからやめようね」
ああ、君と話してると楽しいな。
まだ本当はなにも変わってないはずなのに、君と未来のことを考えるだけで、こんなに視界が明るいんだ。