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死神が僕にくれた幸福な運命  作者: 風乃あむり
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 ぽろぽろと涙をこぼしながら、涼乃はあたたかな笑みを浮かべている。


「なんだ、大事な話があるっていうから、やっぱり振られちゃうのかと思った」


「え?」


 涼乃は目もとをぬぐってカフェラテに口をつけた。


「あーぁ、氷とけちゃった。でもおいしいね。安心したせいかな、久々に心の底からおいしいって思った気がする」


「……どうして?」


 どうしてそんなふうに笑ってるの?


「僕が守れなかったら君は死ぬんだよ? そんな怖い話を聞いて、なんで安心するんだよ? ……それとも、死神とか運命とか、そんなの信じてもらえなかった?」


「そういうことじゃない」


 彼女の答えに迷いはなかった。ちゃんと僕のことを真っ直ぐに見てくれる。


「ねぇ、優磨。私ね、君と一緒ならどんなことだって乗り越えられると思うんだよ」


 春の澄んだ空気に君の声は明瞭で。

 僕の全身にすうっとしみいっていく。


「死神とか、運命とか、そういうものがあるんだとしても、優磨と一緒ならそんなの怖くない。君に嫌われることと比べたら、全然怖くないんだよ」


 彼女は言葉を続ける。


「死ぬのが怖くないなんて、そっちの方が間違ってたんだよ――私も、君と出会うまでいつ死んでもいいような気持ちで生きてた。死ぬのなんて怖くなかった。愛してくれる人もいなくて、生きてる意味なんてよくわからなくて」


 一度だけ顔を合わせたことのある、彼女の母親の凍てつく声音が胸をついた。


「でも優磨が私の誕生日をお祝いして、私が生きてることを喜んでくれたから」


 僕は目を細めた。彼女の黒髪が陽をはじいて眩しくて。あんまりにきれいで。


「君のおかげで私だって生きててもいいんじゃないかって、自分にも生きる価値があるんだって、はじめて信じることができたの。だから死にたいだなんて、思わなくなったんだよ」


 あぁ、そうか。

 すとん、と何かが腹におさまっていく。


「涼乃、僕も君とおなじだ」


 自分の命なんてがらくたで、愛されることなんて信じられなくて。山丘のお父さんとお母さんは親切だけど、そうされる価値を自分に見出せなくて。


 でも。


「……君がこんなに好きだから、僕は死ぬのが怖くなったんだ」


 涼乃がいるからだ。涼乃がいて、微笑んでいて、世界がこんなに美しいから。僕は死にたくないと思ったんだ。


 涙があふれた。

 ダメだ、止まらない。かっこ悪い。


 ああ、それに。

 うずまいて、荒れ狂って、汚くて、コントロールすることができないこの“大好き”だっていう思い。


 本当は、おさえこむ必要なんてないんだ。


「君が好きなんだ」


 何度だって言おう。


 出会った時から好きだった。

 でも、今はもっと強く、深く、取り返しがつかないくらいに。


「君を離したくない。君と離れたくない」


 だから僕は。


「――死にたくないんだ。君と離れて、別の世界になんていきたくない……っ」


 吐き出すみたいにもう一度告げた。


 そうだ、僕は君と一緒にいたい。誰にも君を渡したくない。


 だから――死にたくない。


 涼乃もまた泣き出した。


「私を“好き”だって、特別なんだって思ってくれてること、さっきの話でちゃんと伝わってきたよ」


 涼乃の頬に紅がさした。新たな季節の幕開けを告げる、桜の花のようなしとやかさで。


「私のことを、本当に探していてくれたんだね。幼い頃から、ずっと」


 ひとすじ、ふたすじ涙が流れるたびに、君はどんどん美しくなる。


「優磨……ありがとう。私を見つけ出してくれて、一緒にいてくれて、好きになってくれて。君の“運命の女の子”にしてくれて」


 僕たちは二人、丘の上で向かい合って、泣きじゃくって、周りに人がいるのに、そんなことどうでもよくて。


 気持ちが落ち着くまで泣いて「僕たち赤ちゃんみたいだね」って言ったら、涼乃は笑った。


「そうだよ。私たち赤ちゃんなんだよ。今日、もう一度、生まれ変わったんだ」


 空が茜に染まるまで僕たちは話し続けた。今までのこと。これからのこと。


 そして今日。

 僕たちは、はじめて手をつないだ。


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