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「優磨」
放課後、学校の図書室で勉強していると涼乃が顔を見せた。小声で僕をよび、手招きしている。
「……どうしたの?」
彼女と話をするのは一週間ぶりだった。
僕はずっと彼女から逃げていて、そんなことをしているうちに、冬は一番寒さの厳しい季節を迎えていた。
久々に向き合うのはひどく気まずくて。
そして、その感情をたやすくこえるほどの強さで、君と会えるのが嬉しかった。
「はい、どうぞ」
図書室の外に出ると、彼女は小さな包みを差し出した。
透明なビニールの包装に、赤いリボン。
その中に入っていたのは、チョコレートだった。
「バレンタインのプレゼント」
涼乃はひかえめに微笑む。自分で作ったの、だから見た目が悪いのは大目に見てね、と言い添えて。
「……ありがとう」
その小さな包みを両手で受け取って、僕は胸がいっぱいだった。
「大事に食べるよ」
「大したもんじゃないから」
涼乃はそれだけ言うと、邪魔してごめんね、と笑った。そして身をひるがえして帰ってしまう。
僕に避けられているのを涼乃は分かってる。それでも、こうやって僕のためにチョコを作ってくれたんだ。
それなのに。
身がすくんでしまって、僕は君の背を追うことができない。
――あのね、涼乃。
僕は今、君の隣にいるのが怖いんだ。
だってきっとそこは僕の死に場所だから。そこにいたら、死神の鎌が僕の首を摘み取ってしまうから。
そして言い訳をしてるんだ。
僕の死が君の死と結びついているのなら、君と離れてさえいれば二人とも死なずにすむんじゃないかって。
ほんの少し前まで、君のために死ぬことはちっとも怖くなかった。生きる目的だった。
なんで僕はこんなに変わってしまったんだろう。今は足がすくんでしまって、君のそばにいることさえ怖くて。
手のひらにおさまった、小さなチョコレートの包みを見つめる。ころころと丸いトリュフたち。
作るの大変だったろうな。ちゃんとココアパウダーもまとってて、形もきれいだ。ラッピングも丁寧で、几帳面な涼乃らしい。
僕のために頑張ってくれたんだと思うと、胸にうずまく汚らしい感情がほんの一瞬かききえて、心の底の一番暗いところに陽が当たる。
僕はこんなにも君が好きだ。
それはちっとも変わってない。
なのに、それなのに――。
君のために死ぬのが、なんでこんなに怖くなってしまったんだろう。




