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杏奈が小学生になると、僕たちは同じ学校に通うことになった。
僕は彼女の後ろについて登校した。最初の一年くらい、杏奈は僕のことを友だちにこう説明した。
「あの子、カワイソウナコだからうちでひきとったの」
けれど、大きくなるにつれて彼女は僕という存在を一生懸命遠ざけるようになった。
彼女が小学三年生のとき、
「学校で目立ったりしないでよ。あんたが話題になると、あたし、恥ずかしいんだから」
そう告げられて、僕はこくりとうなずいた。
言われるまでもない。山丘のおじさんとおばさんに迷惑をかけるわけにはいかない。
幼心に、僕を引き取ってくれた二人が信じられないお人好しで、いろんな無理をしてくれていることは分かっていた。
二人は僕の遠い親戚だと言っていたけれど、どんな関係なのかは教えてくれなかった。
「もう少し優磨が大きくなったら、きちんと話をするから」
山丘のおじさんはそう言った。それに不満があるはずがない。この家にいさせてもらって、食事も洋服もなにもかも十分に与えてもらって、それ以上を望むなんて贅沢すぎる。
おじさんやおばさんのためにも僕は“ふつうの子”であり続けなきゃいけなかった。目立たない――人より特別劣ってはいけないし、優れていてもいけない。突飛なことはしない。
こうして僕は、世間が用意したフレームの中にうまく埋没して生きる術を覚えていった。