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死神が僕にくれた幸福な運命  作者: 風乃あむり
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6

 一月が深まった頃、世田谷に雪が降った。

 深夜から降り続けた雪はしんしんと積もって、僕たちの街を白く閉じ込めてしまった。


 雪を踏みしめながら一人で登校する。

 チャイムが鳴るギリギリに。

 公園には寄らず。

 涼乃に会わないように。


 クリスマスのデート以降、僕は涼乃と距離をとっていった。


 初詣に行きたいという彼女の希望を断って、三学期が始まってからも、中学受験をする義妹の勉強をみたいという理由をつくって朝の公園で会うことすらやめてしまった。杏奈が僕に勉強を教わるなんて、そんなことあるはずないのに。


 雨の日も風の日も続いてきた朝の大切な時間。

 部活や委員会に邪魔されないかぎり、僕たちは必ず一緒に過ごしてきた。


 あの公園に行けば君がいる――そのことがどれだけ僕を勇気づけてくれただろう。


 それなのに。

 僕は今、なんだかホッとしている。


「山丘。お前、最近どうした?」


 朝のホームルームを終えたあと、学級委員の仕事で職員室に行くと、担任の荒坂先生に声をかけられた。


 “最近どうした?” どういう意味だろう? この人はまた何を言い出したんだ。


 立ち止まる僕に、先生は自分の頬を引っ張ってみせる。


「年明けからずっと顔が強張ってる」


「え?」


 思わず僕も頬に手がいく。さわったからといって何が分かるわけでもなかったけど。


「なにかあったか? お前があんまりピリピリしてるとクラスのみんなも調子を崩すぞ」


「僕にそんな影響力ありません」


 相変わらず謙虚だなと先生は笑って、勝手に話を進めていく。


「まぁ、声変わりも終わったみたいだし、大人の男に近づいて渋みがでてきただけか?」


「……そういうこと言われると恥ずかしいのでやめてください」


「思春期だしな」


「もっと恥ずかしいです……」


 わはは、と荒坂先生は手を叩いて笑う。黒縁眼鏡の貧相なおじさんなのに、笑い方だけは豪快だ。


「まぁ、無理にヘラヘラする必要もないんで別にいいんだ。むしろ今までの方が特殊だったかな。ガキンチョのくせに悟りを開いた坊さんみたいな顔してたから」


 なんだそりゃ。……ん? でも涼乃も僕のこと“仙人系男子”って言ってたな。


「悩みを抱えて成長したまえよ、少年。なんかあったら聞いてやるからな。一人で抱え込むなよ。大きな問題に立ち向かうときは、一人より二人だ」


 適当にお礼を言って職員室を出ると、小さく笑えてきた。


 荒坂先生の鋭さと、肝心なところで踏み外す落差がおかしかった。


“悩みを抱えて成長したまえ”なんて言われても、余計に苦しいだけですよ、先生。

 僕は成長なんてできなくて、みんなよりはやくに死ぬんです。


 廊下から窓の外を眺めれば、なにもかも押しつぶすほどの重量で雪が景色を染めている。

 白い。真っ白だ。木々も、グラウンドも、街も。


 空色電車が向かう先は、こんな寂しい世界なんだろうか?


――いやだ。こんなところには行きたくない。


あぁ、また僕の内側で、勝手に叫んでいる僕がいる。必死に何かにしがみついて、爪を立て血を流してる。


――僕は絶対に、この命を失いたくないんだ!!

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