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「ねぇ、優磨」
付き合い始めたその日から、涼乃は僕を名前で呼ぶようになった。
その響きがやわらかくて、くすぐったい。
毎日彼女の部活が終わるのを待って、並びあって帰宅した。
冬になると、世田谷の住宅街は光の化粧で華やいでいく。クリスマスのイルミネーションだ。木々がきらめき、星がまたたき、サンタやトナカイが道いく人に微笑みかける。
踏みしめるアスファルトさえ、ふわふわとやわらかい気がした。
世界は底抜けに明るかった。現実感がないほどに。
まるでここは夢の中みたいだな。涼乃が僕を好きで、もちろん僕も涼乃が大好きで。
いっそこれが永遠に続く夢だったらいいのに。
死神の呪いの届かない――完全無欠の夢の中。
彼女は自転車を転がしながら僕の隣を歩いている。
「浮世離れした仙人系男子の君は知らないかもしれないけど、普通、お付き合いを始めたら休日にデートをするものなんだよ」
「仙人系? なにそれ?」
「悟り切ったおじいちゃんみたいな男の子のこと。私がつくった言葉」
「じゃあ君はおじいちゃんのカノジョってことになるけど、いいの?」
「ようするにおばあちゃんね。まぁ、いいよ」
涼乃はくすくす笑う。
「じゃあ最初のデートは縁側で緑茶かな?」
「巣鴨でもいいんじゃない? おばあちゃんの原宿らしいし」
でもね、と彼女は少しうつむいた。
「私、優磨と一緒なら、どこだって楽しいと思うのよ」
紺のピーコートに白いマフラー。そこにうずめた彼女の顔は、くすぐったそうな、照れくさそうな。
――くそっ。
僕は内心で悪態をついていた。
本当にまずい。
死神の言う通りなのに。
涼乃の恋人なんてやめるべきだ。ちゃんとその他大勢でいるべきなんだ。
それなのに。
――この女の子、なんでこんなに可愛いんだ?
君の隣で頬を緩めてる僕がいる。
「絶対にこの子の隣を渡したくない」って思ってる。
最低だ。
本当に――僕は何をやってるんだ。




