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六月の幕が落ちて、セミの鳴き声を引き連れ夏がやってきた。期末テストに向けて慌ただしくしているうちに、涼乃はいつもの調子を取り戻していった。
彼女の通学鞄には、やけにリアルなメロンパンのキーホルダーが揺れている。
「うわ、まさかそんな目立つところにつけてくれるとは思わなかった。恥ずかしくない? 大丈夫?」
「はぁ、なに言ってるのよ? 自分が選んだプレゼントでしょ、自信持ってくれないと困るんですけど」
僕の心配は鋭い舌鋒ぜっぽうで返り討ちにされた。うん、よかった、それでこそ涼乃だ。
それにしても涼乃はすごい。
あんなに苦しそうにしていたのに、学校を一度も休むことなく、遅刻すらしなかった。その強さに僕は感心せずにはいられなかった。
この夏、彼女は中学二年生ながら東京武道館で行われた大きな大会でトーナメントの頂点に立ち、僕はそれをスタンドで見守っていた。
表彰式後、彼女はスーツの男に声を掛けられていて、顧問の荒坂先生がその人を紹介しているようだった。
名刺を渡されて、試合の時よりも緊張しているような涼乃の表情に、僕はぴんときた。
あのスーツの人、多分どこかの高校の関係者だ。おそらくスポーツ推薦の話をしているんだろう。
涼乃は剣道の力で高校入学の権利も勝ち取るのかもしれない。
表彰式が終わった後の人のまばらなスタンドに座りこんだまま、僕はぼうっと考えていた。
――じゃあ、僕は?
僕はいったいどうするんだろう? 山丘の両親は進学を強く進めてくれているから、僕もきっと進学することになるんだろうな。
でも、何のために、どこに進学すればいいんだろう。
武道館を出ると蝉の鳴き声がうるさかった。陽射しが痛い。
あんなに長く苦しかった梅雨も、明けてしまえばあっという間だ。きっとこの夏もすぐに過ぎ去るんだろう。
――もう卒業した後のことを考えなきゃいけない時期なんだ。
これまでとは別の、新しいスタートラインが勝手に用意されていることを僕は痛感していた。
そのラインに、僕が立てるかどうかはわからないけれど。




