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体育祭が終わるのを見計らったように梅雨前線が張り出した。僕たちの住む街は、重たい雨雲にのみこまれてしまった。
念のため日曜日はゆっくり過ごして、僕はすっかり回復した。翌日、静かな雨の音を聞きながら、いつも通り公園に行く。こんな日でも涼乃はちゃんとそこにいて、僕の顔を見るなり焦ったように立ち上がった。
おはようと声をかけると、今度は空気が抜けたようにベンチに座りこんだ。
「おはよう。よかった……元気そうで。体育祭の日、担架で運ばれたりするから」
「ごめん。なんか大げさなことになっちゃったんだけど、この通りもう大丈夫」
向かいに座った僕に、彼女は視線を合わせない。
「やだなぁ、心配しすぎた」
「そんなに心配してくれたの?」
茶化すように言ったけど、涼乃の表情はかたいままだった。
「そうね。自分でもヒクくらい心配だったな。というか、怖かったの。ダメだね、こんなの」
「ダメなの? 僕は心配してもらって嬉しいけど」
彼女はまつ毛を伏せて首を振った。そして言う。
「みじめになりたくないの」
「えぇ?」
なんで僕を心配するとみじめになるんだろう? やっぱり僕がコバエだから?
「あのね、私、ちゃんと山丘くんと対等でいたいの。私だけが君にもたれかかるような、そんな無様なことにはなりたくないのよ」
「変なこと言うなぁ。忘れちゃったの? 僕が涼乃に頼みこんで友だちになってもらったんだよ」
対等どころじゃない。僕にとって涼乃は“運命の女の子”だ。涼乃にとっての僕がただの同級生だったとしても。
彼女は少しのあいだ黙りこむ。頭上の屋根が雨に叩かれて静かなリズムを奏でていた。
「ごめん……六月ってダメなのよ、私」
涼乃は重たいためいきをついた。
「雨のせいかなぁ、毎年六月がすごく憂鬱で。親のことも学校のことも何一つ変化なんてなくて全部慣れてるはずなのに、六月だけはダメなの。つらくてつらくて、もうダメだって全部放り出したくなる」
六月って本当に、たくさん嫌なことがあるのよ、と涼乃の声は一段と重たい。
涼乃の両親は彼女の養育を放棄している。いつもしっかりしてる涼乃を見ていると忘れちゃいそうになるけど、彼女はネグレクトという名の虐待を受けている女の子なんだ。
六月の長雨が、背もたれで弾けて涼乃の背を濡らしていた。灰色の空が重たくのしかかって、彼女を押し潰してしまいそうだ。
「僕に何かできることってないかな?」
彼女は視線を落としたまま首を振る。
「いいのよ。もう一回言うけど、私、君に寄りかかりたくないから」
なんで突然突き放すようなことを言うんだろう。熱中症になって倒れたのが、そんなに頼りなさそうに見えたんだろうか。
その日の朝は会話が弾まなくて、なんとなく気まずいまま別れてしまった。




