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涼乃は元気がなかった。
にぎやかな行事がしんどいのかもしれない。グラウンドに戻ると応援席にはおしゃべりする生徒たちが作る輪がいくつもできていて、そのどれもが彼女を拒むように閉じられていた。
昼休み、グラウンドから逃げ出して裏庭に駆けこんだ涼乃。その気持ちを想像するといたたまれなかった。
席に戻ると、本山がビニール袋を二つ掲げた。
「優磨が消えてた間に、お前の父ちゃんが来たぞ」
「え?」
山丘のおじさん?
今日は土曜日だけど仕事があるから学校には来ないって言ってたのに。おばさんが杏奈を連れて二人で見に来てたのは知ってるけど。
保護者席のあたりを見てもおじさんの姿は見当たらなかった。
「で、差し入れもらっちゃった」
満杯のビニール袋からゼリー飲料がのぞいていた。エネルギーを五秒でチャージできるようなやつ。
すごいな、クラスの全員分あるのかな。どうしよう、また余計なお金を使わせてしまった。
「ありがてぇな。これでうちのクラスの勝利は確実だぜ」
「はいはい。本山、これ配るの手伝ってよ」
さんざん仕事押し付けられてるんだから、こいつにも手伝ってもらおう。
「りょーかい。そういえば優磨とあの父ちゃん血がつながってないんだよな? その割には優磨と似てね?」
「……えぇっ、そうかな」
一瞬ぎくりとした。家のことを話したことなんてなかったのに。
でも涼乃だって僕が親のいない子だって知ってたんだから、本山が知らないわけないか。
「なんかこう、口もとのあたりとか似てるんだよなー」
「気のせいだよ、気のせい」
適当なこと言いやがって。
でも陰でこそこそ噂されるよりはマシかな。面倒なやつだけど、本山を憎めないのは、裏表がないからだろうな。