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木陰の下に小さなビニールシートを広げた涼乃は、僕に気づくと目を丸くした。
「山丘くん、こんなところでどうしたの?」
「涼乃こそどうしたの?」
重なり合う緑が陽射しを遮って、涼乃の顔に重たい影を落としていた。
「私は“ぼっち”だからここでこっそりお昼を食べてただけ」
彼女はコンビニの袋を掲げてみせた。
「まさかお昼もメロンパンじゃないよね?」
「失礼ね。メロンパンだけじゃなくてサラダも食べたわよ」
「やっぱりメロンパンじゃん」
そんな気の抜けた会話をしながら彼女の隣に腰かけると、自分のいるべきところに帰ってきた気がした。
「涼乃がここでご飯を食べるなら、僕も来ればよかった」
「こんなとこに? 山丘くんみたいに友だちがいる真っ当な人は、陽の当たるところで食事すればいいのよ」
「そんな暑苦しいところより、僕は君の隣が好きなんだ」
涼乃は少し目を見開いて、そのまま静かにうつむいた。
「君は本当に変な人だね。クラスの中心になれるのに、私なんかのこと気にして」
「どういうこと?」
「……押し付けられたわりに、うまく学級委員長やってるみたいだからさ」
うまくやってる? なんだか涼乃はとんでもない誤解をしてるみたいだ。
「違うよ。体育祭実行委員の本山に仕事を押し付けられて、あげくにあいつが頼りないせいでクラスのみんなも僕にあれこれ聞くだけ。もう本当に面倒くさいんだから」
うなだれると、涼乃はくすりと笑った。
「ほら、ちゃんと委員長やってるじゃん」
「えぇ?」
涼乃の誤解が解けない。困った。
「山丘くん、去年とは別人みたい」
彼女はなんだか申し訳なさそうに笑う。
「ずっと君のこと“ちゃんとした中学生”だって思ってたけど、今の方が普通の男の子っぽい」
「そうかな?」
「うん。今ならわかるけど、君はずっと“ちゃんとしてるフリ”をしてたんでしょ? 心のどこかが麻痺してたから、そんなことできてたんだよ。でも今は全身で中学生男子をやってる感じ」
わかるような、わからないような。
ピンポンパンポーンという間抜けな音とともに放送が入って、昼休みがまもなく終わることが告げられる。
「うわっ、もう昼休み終わるのか」
「午後は全員リレーからだよね。私、第一走者なのよ。無駄に足がはやいせいで責任重いところに入れられちゃった」
さすが涼乃。“その他大勢”の僕とは違うなぁ。
「じゃあ僕は涼乃のこと応援するよ。クラスのヒーローになれるように」
「……変なこと言わないでよ」
涼乃はそっけなく僕に背を向けた。その背中に向かって、僕は言葉を勝手に送りつける。
「あのさ、僕は君がかわいそうだから一緒にいるわけじゃないからね」
はっと彼女は僕を振り返った。一拍の間をおいて、涼乃は「ありがとう」とぽつんとこぼした。
それに本当にかすかな声が続く。
「山丘くんがいてくれて、本当によかったな」




