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死神が僕にくれた幸福な運命  作者: 風乃あむり
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3


「そんな不安そうな顔をするなよ。山丘は学級委員長に向いてると思うぞ」


 放課後、さっそく担任に呼び出された。

 人の少ない職員室には、春のゆるゆるとした気配がただよっている。

 プリントやら教材やらで散らかった机の上にコーヒーカップをのせて、担任の荒坂先生はのんびり言った。


 先生は僕のなにを知っているんですか。

 不安よりも不満だらけで、文句の一つも言ってやりたい。でもそういうのに慣れてないから、うなだれることで精一杯の抵抗を示した。


「誰もやりたがらなかったから、面白がって推薦されただけです」


「推薦した本山はそうかもな。お前の友だちだろ? でも、クラスのみんなはお前に一目置いてるみたいだし、俺もお前がやるべきだと思ってるよ」


 なにを言ってるんだこの人は。


「山丘は成績もいいし、人当たりもいい。みんな信頼してくれるよ」


「気が弱いだけです」


 小声で言うと、豪快に笑われた。


「わはは、何言ってんだ! 気が弱い男があの夏原と仲良くできるわけないだろ」


 ぎょっとした。なんで涼乃の名前が出てくるんだ。


「あの子はさ、剣道が強くて稽古も誰より熱心なんだけど、周囲と歩調を合わせるのは苦手らしい」


「……そうなんですか?」


 すっとぼけながら思い出す。荒坂先生は剣道部の顧問だった。


 それにしても僕と彼女の友人関係を知られているなんて。学校の噂って、職員室にまで入り込むものなの?


「そんな夏原に心を開かせるんだから、お前の包容力はすごい。強い牽引力(けんいんりょく)だけがリーダーに求められる資質じゃない。俺は山丘の知性と大らかさがこのクラスには必要だと思ってる」


「お……大げさです」


 途方にくれた。まだほとんど始まってもいないクラスのことを言われてもピンとこないし、なにより僕はとにかく目立たず波風たてずに生きてきて、これからもそうすべきなんだ。


「お前はさ、手を抜いて生きてるだろ?」


「え?」


 背後から引っ叩かれたような気がして息が止まった。


「去年一年、社会の授業担当として山丘を見てきたけど、グループワークをさせてもレポートを書かせても、なんかもったいない感じがするんだよな」


 カップに口をつけながら、先生は無遠慮に僕の目の奥をさぐる。コーヒーの強い香りが鼻の奥を刺激した。


「手を抜いてるっていうか……あきらめてるって感じかもしれないな。“僕はこのくらいで十分です”みたいな」


 まぁ、俺の勘違いかもしれないけど、と先生はからりと笑った。


「というわけで、お前も今年はチャレンジの年にしてみるといいと思うよ。それに、委員長なら内申点もよくなるだろ。お得だと思えばいい」


「いや、僕は高校に行くつもりはないので……」


 はぁ、どういうことだ? と先生が眉をひそめた。僕が黙りこくって何も反応しないので、結局同じことを繰り返した。


「とりあえずやってみようや、学級委員長」


 先生は引き下がるつもりはないらしい。僕はしぶしぶイエスと答えて、職員室から逃げ出した。


 廊下に出ると自然とため息がもれた。あの先生、なんて厄介なんだ。


 うまく集団になじんでさえいれば、大人はみんな僕のことを背景の一部みたいに見逃してくれてたのに、あの荒坂という先生はそこから僕を引きずり出そうとしている。擬態し景色に溶け込んだ虫をわざわざつまみあげるように。


 それにしても、内申点なんて――考えたこともなかった。


 僕はそもそも高校生になれるんだろうか? そこまで生きていられるんだろうか?

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