第二章 1
中学1年生の冬、僕と涼乃は毎朝公園で会って、ささやかな時間を楽しんだ。
マフラーと手袋、コートにホッカイロ。防寒具で身を固めても、寒さは容赦なく僕たちを襲ってきたけれど、それでも二人でいれば心は温かかった。
涼乃、と呼びかければ、彼女はどこかくすぐったそうに口もとを緩めてくれる。
それが嬉しい。
冬の終わりを梅の花が告げ、やがて桜の蕾がほころぶと、僕たち二人はそろって新学年を迎えた。
桜舞い散る春の日に、僕は自分の生い立ちを彼女に話した。いつもの公園で、孤独にたたずむ一本桜を見上げながら。
幼い頃たくさん殴られたこと。母親の無理心中に付き合わされそうになったこと。
でも、山丘家に引き取られてからは、すごく大切に育ててもらったこと――そのことに最近気がつけたこと。
彼女は喉をつまらせて話を聞いて、最後に「山丘くん、君と出会えてよかったな」と言ってくれた。
そうやって、君は僕が生きてることを丸ごと肯定してくれる。
それがどうしようもなく嬉しくて、あたたかくて。僕は自分が人間の輪郭を取り戻していくのを感じるんだ。
もちろん涼乃に全てを伝えられたわけじゃない。
臨死体験や死神との約束のことは伏せておいた。
君の代わりに僕が死ぬだなんて――そんなこと、言えるわけがない。
涼乃と――“運命の女の子”と出会って、一年。
桜に寄り添う君を見つけて恋をして、一年はあっという間に過ぎていった。
ねぇ、涼乃。僕たちは似たもの同士だったから、運命で結ばれたのかもしれないね。
親のいない僕と、親の愛が欠けた君。
君を思えば思うほど、死神との約束を間違いなく果たせるのか不安が募る。
僕はまた君を救えるだろうか。
死神に予言された決定的な瞬間に、正しく命を捨てられるだろうか。




