第1章 1
奇妙な電車で奇妙な男と会ったあと、僕は病室のベッドで目覚めた。
あとから知ったことだけど、僕は川面に一人で浮いているところを発見されたらしい。救急搬送された先で一命を取り留めたものの意識は戻らず、そのまま天に召されるものだと、お医者さんも看護師さんも覚悟していたんだって。
だからそんな僕が蘇生して、後遺症も残らなかったことに病院の人たちは驚いていた。
「本当に、大した奇跡だね。子どもには大人の常識が通用しないことがあるの。だからね、“子どもは神様のもの”って言うんだよ。優磨くんも、きっと神様に助けてもらったんだね」
ベテランの看護師さんはそう笑ってくれた。そんな彼女に、僕を助けてくれたのが死神だったなんてとても言えなかった。不吉だし、信じてもらえるとも思えなかったし。
だからあのアフロの死神との約束は、ひとまず僕の胸にしまっておくことにしたんだ。
いろんな検査のためにしばらく入院して、体力も回復してきたころ、主治医の先生が神妙な顔で僕に向きあった。
「ショックだと思うけど、君に伝えなきゃいけないことがある。君のお母さんのことだ……」
母は遺体で発見されていた。
それはぼんやりと予想していたことで、特段驚きはしなかったんだけど、やっぱりひどく悲しかった。どうしようもなく寂しかった。
たくさん殴られたことよりも、抱きしめてくれた温かさとか、一緒にご飯を食べて笑ったこととか、そんなことの方がまぶたの裏できらきら輝いて。
それから、僕はしばらくぼうっとなってしまって、病室のベッドの上でぼんやりと窓の外を眺めながら一日一日をやり過ごしていた。
物事がうまく考えられなかった。
これからどうなるんだろうとか、どうやって生きていくんだろうとか、そんなことですらまともに考えられなくて。
お母さんが死んで、僕は本当にひとりぼっち。
その孤独な心細さだけが胸をふさいでいた。