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「山丘くんて頭いいんだね」
公園で朝食のメロンパンを食べながら、夏原さんは僕をまじまじ見た。
ここで彼女と会うのが二人の日課になっていた。まぁ、僕が勝手に会いに来てるだけなんだけど。
ちょうど昨日、中間テストの結果が張り出されていて(この学校では、学年の成績上位三十名まで問答無用で名前が掲示される。僕は二十八位でギリギリ名前がのってしまった。目立ちたくないのに。大失態だ)、彼女もそれを見たらしい。
意外だな、いかにも他人に興味なさそうなのに。
「意外だよね、そんな賢そうに見えないのに」
あ、同じようなこと思われちゃった。
「ギャップ萌する? ちなみに僕は君にギャップ萌します」
「……死ね」
「え!? いや、こんなところで死ぬわけには」
「当たり前でしょ。本気にしないでよ、バカじゃないの?」
また罵られてしまった。
でも賢いよりはバカの方が自分になじんで落ち着く。
「頭がいいわけじゃないんだよ。部活に入ってないから毎日放課後ヒマなんだ。人より勉強時間が長いんだと思う。それだけ」
放課後も休日も部活に費やす人たちに比べれば時間はいくらでもある。それに、今は義妹の杏奈が中学受験に向けてぴりぴりしてるから、なるべく家にいないようにしてるし。
授業が終わったら図書室に行って、閉館ギリギリまでノートを開くか本を読む。そういう生活。
「暇だからって勉強なんてする? 遊ぶ友だちいないの? ゲームするとかさ」
「みんな部活か塾じゃん。ゲームはあんまり興味ないな」
そんなことを話すうちに、彼女はメロンパンを食べ終える。今日はメイプルメロンパン。昨日はチョコチップメロンパンだった。世の中にはいろんなメロンパンがあるんだね。
彼女は毎朝この公園で朝食を食べている。メロンパンと牛乳の、決まったメニューで。
――どうして家で食べないんだろう。
ここしばらく気になっていた。
彼女は大人びてるけど僕と同じ中学一年生で。
口は悪いけど、真面目でいつも背すじを伸ばして、きちんとしている。
こんなことろで毎朝コンビニのパンをかじっているなんて、どうにも似つかわしくない。
思えば入学式の時も夏原さんは一人だった。
孤児である僕でさえ、山丘のおじさんおばさんに付き添われていたのに。
ちくり、と胸に痛みが走った。
――もしかして、君も僕と同じなのかな?
親のいない、ひとりぼっちの僕と。
「ちょっと山丘くん、何ぼーっとしてんのよ。学校遅れるわよ」
ぎろりと睨まれて、僕は想像の世界から帰還した。
「ごめん、メロンパンのこと考えてたら妄想が広がっちゃって」
「うわっなにそれ、怖いんだけど。まぁとにかく遅刻しないようにね」
さすがに一緒に登校するわけにもいかないので――だってまた新たな噂がたっちゃうから。“夏原涼乃が陰キャを奴隷にしてる”とか――僕たちはいつもここで別れることにしている。
じゃあねと手を振ると、そっけない軽やかな音をたてて、彼女のロードバイクの車輪が地を蹴る。すぐにその背は見えなくなった。
「やっぱり真面目だなぁ」
彼女は絶対に遅刻しない。時間に正確だ。
「それに、優しい」
僕のことも気にかけてくれる。あんな風にぶっきらぼうだけど、徒歩の僕がホームルームに間に合うように考えてくれてるんだ。
頬が緩む。ぎゅっと唇を結んでないと、笑みがこぼれてしまいそうだ。
もう六月。
空気はたくさんの湿気をふくんで、半袖のシャツが腕にはりつく。
でも、嫌な気分じゃない。
もうすぐ夏が来る。
彼女と出会って最初の夏が。
僕はいつか彼女のために死ぬけれど。
それまでなら、彼女の隣にいることを楽しんでもいいですか、死神さん。




