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「なによ、ストーカー君、あんたまた来たの?」
翌朝、僕はもう一度あの公園を訪れた。
嫌悪にまみれた視線に加えて、呆れたようなため息が僕を襲う。
「昨日あんだけ意地悪言ってやったのに、割と根性あるコバエなんだ」
「ちょっと待って」
僕はぎゅっと拳を握った。
昨日みたいに彼女のペースに飲み込まれちゃダメだ。さっさと言ってしまわなきゃ。
「確かに僕は夏原さんのストーカーみたいなものかもしれない」
「……なに開き直って認めてんのよ」
だって仕方ない。僕は入学以来、君のことばっかり見てたんだ。君のクラスを調べて、君と同じ部活に入ろうとして。間違いなくストーカーみたいなもんだ。
「でもね、僕をそのへんの普通のストーカーと一緒にしないでほしい」
そう、これだけは言わせてくれ。
「僕は、君に出会う前から君のことを探してたんだ」
子どもの頃からずっと。
いつか会う日を待ち焦がれて。
そのために死の際から戻ってきたんだ。
「やっと君に会えた」
見た目の美しさだけに惹かれたんじゃない。入学式の日、一目見ただけですぐに君だって分かったんだ。
たとえ視力を失ったって、君のことだけは見つけられる。
どうしたって気づかずにはいられないくらい、君は“僕の運命”なんだ。
「昨日はいきなり声をかけて嫌な思いをさせてごめん。でも僕はそのへんのコバエと違って、もっと年季の入ったコバエだから。それだけは覚えておいてよ」
僕の力説に、彼女はぽかんと口をあけた。
無防備な顔。
中学一年生らしい、あどけない表情。
「……あんた、ストーカーとかコバエとか言われてムカつかないわけ?」
「全然」
僕は胸をはった。
そんなことくらいで腹をたてるわけがない。
「君に何を言われても僕は怒ったりしない」
だって僕は君を守らなきゃいけないから。強い男でありたいから。武器を振り回す力はなくても、心だけは強くありたい。
「あんた……キモいね」
「否定しない」
「あと、ヤバイ。“出会う前から探してた”? もしかして中二病?」
「そうかもしれない」
別にキモくてもいい、中二病でもいい。君と話ができるなら。
夏を予感させる、熱を帯びた風が吹く。
「バカみたい」
僕をののしる君の声は、昨日と調子が違ってた。
キモいとかバカとか、ひどい言葉なのに、なんだか優しい肌触りを感じたんだ。
「僕は山丘優磨です」
手を差し伸べる。君に。僕の運命の女の子に。
「夏原さん、僕と友だちになってください」
雲が横切って日差しをさえぎり、一瞬君の顔が影にのまれる。少しの沈黙。
通りを行き交う車のノイズに僕の鼓動が重なる。
どくん、どくん。
再び陽が差した時には、彼女は笑っていた。
毒のある笑顔じゃなくて。
心の底からおかしそうに。
「あんた、頭おかしいね」
ぱしん、と僕の手をはたく。
「いいよ、友だちになろう。もともと私“ぼっち”だから。あんたみたいな友だちがいても面白いかも」
立ち上がるセーラー服の裾が楽しげに揺れる。
「あらためまして、私は夏原涼乃。よろしくね、ストーカーの山丘くん」




