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死神が僕にくれた幸福な運命  作者: 風乃あむり
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3


 小さな(すみれ)の花が私の足をくすぐった。

 物思いから返ると、私の足は歩みを止めていた。菫、蒲公英(たんぽぽ)、山百合、芝桜、秋桜(コスモス)、シロツメクサ。


 季節を問わず咲く花々が、私を見上げるように花弁をひろげている。


 その色彩の穏やかさに、心がすとんと落ち着いた。


 ――そうだ、彼はきっと大丈夫だ。


 あんなに傷ついていたのに、自分で立ち上がった。周囲の人に愛され、認められた。


 何より、“運命の女の子”の塞ぎきった心を明るいところに連れ出すことができるほど、彼は強く優しい子なのだから。


 ――あぁ、彼のそばにいたかった。


彼を育ててくれた彼女の兄夫婦が羨ましい。


――彼のように戦えばよかった。


 自分の死に抗って、最期の最期まで、愛する(ひと)のそばに居続けるべきだった。


 そうだ、彼は大丈夫だ。私とは違うのだから――二度も愛する女性を見捨てて暗闇に突き落とした私とは――。


 にゃあ。


 はっと顔を上げた。花咲く野を見渡す。今、どこかで猫の鳴き声が……。


 にゃあ。


 もうひと鳴き、今度は先ほどよりはっきりと聴こえた。


 川の向こうに猫の尾が見えた。茂る草花と並んで揺らぐその尻尾は黒く、そしてひょろりと長い。


「にゃーあ」


 緑をかきわけて黒猫が姿を見せた。対岸からこちらをじっと見上げている。


 瞳の闇色が、やけに心に迫った。


 既視感があった。

 凝った闇の色。絶望が押し固められてできた重石の色。


「あぁ……迎えに来てくれたのか……」


 再び足が動き出す。迷うことなく川面(かわも)に足を伸ばした。私の魂は軽ろやかに水上をすべる。


 ぽたぽたとこぼれるものが水面に美しい波紋を作り上げていった。


 向こう岸にたどり着いて私は、じっと待っていてくれた黒猫を抱き上げた。


 なんて温かいんだろう。

 なんてやわらかいんだろう。


 猫の鼻先が、私の頬に押しつけられる。その時、風音に混じってかすかに聞こえたのは、気のせいだったか。


 ――ずっと会いたかったわ。


 そうだ、私も会いたかった――何よりあなたに会いたかったんだ――。


✳︎


 そして私は黒猫のぬくもりを胸に感じたまま、また歩き出す。蛇行して流れる川を離れて、遠い光の方へ――。





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