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死神が僕にくれた幸福な運命  作者: 風乃あむり
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 長い夜は、じっくりと話をする時間を僕たちにくれた。


 全て話を聞き終えて、彼女は大きく息を吐いた。


「もう、やだなぁ。優磨が一度死んだなんて……聞いただけでも私の心臓の方が止まりそう」


「うん、僕ね、死ぬほど悔しかったよ。本当に死んだんだけど」


 面白くないわよその冗談、と涼乃は僕をにらむ。おかしいな、渾身(こんしん)のギャグだったのに。


「ということは、もう大丈夫なのかな?」


 涼乃はおそるおそる僕にたずねる。


「“私をかばって優磨が死ぬ”、そんな運命はもう終わったのかな?」


「うん、きっと大丈夫だよ。死神が言ってた、もう運命の力は僕たちを導かないって。あとは僕たちの力だけで進んでいけって」


 そうなんだね、とあらためて涼乃は空を見上げて、息を漏らす。心の底からの安堵のため息だった。


 そう、あのアフロの死神が僕にかけた優しい“呪い”――僕たちの運命は、一つの終着点にたどり着いたんだ。


「ねぇ、もしかしてアフロの死神って……」


涼乃の控えめな問いかけに、僕はうなずく。


「うん、あの人は僕の父親だったみたい。本当は死神なんかじゃなかったんだ」


 思い返してみれば、彼を死神だと決めつけたのは幼い僕の思い込みだった。


「僕ね、一度死にかけたあの七歳の時から、何度か死神と話してたんだよ」


 涼乃と出会って、自分が変わっていくその節目、節目。僕の枕元に彼は立った。そして普段の生活で視線を感じることだってあった。

 それを僕は「監視されてる」って感じていたけど。


「そうじゃなくて、あの人はずっと僕を見守っていてくれたんだ」


「優しいお父さんだったんだね」


 涼乃は微笑んでくれたけど、僕は大きく首を振る。


「ううん、かなーり意地悪だったよ。僕が涼乃と幸せそうにすると枕元に現れてさ、“死んでこっち来い”みたいなこと言ってたし。そうだな、やっぱり死神らしい死神だったのかもしれない」


 ええっと涼乃が眉をひそめる。


「本当にムカついてさ。なんでお前の言いなりにならなきゃいけないんだって言い返してやったこともあった」


 今になると笑えてくる。僕、反抗期だったんだな。実の父親に対して必死に歯向かってたんだ。


 生きている間には会えなかった父親だけど、でもやっぱりあの死神は僕の父親だった。

 僕を導いてくれて、そして僕が乗り越えなきゃならなかった、産みの親。


「お母さんと、どこかで再会できてるといいなぁ……」


 お母さん――僕を産んで殴った、実のお母さん。


 ――僕は、本当にあなたのことが怖かった。


 今でもあの恐怖は僕の体のどこかに潜んで、僕を愛のない世界に引きずり込もうとするんです。


 きっと僕は、あなたのしたことを永遠に許すことはできない。


 だから、お父さんと再会してください。

 きっとあの不器用でちょっと変わったあの人が、今度こそお母さんを幸せにしてくれるから。


 星が瞬く。その光は、夜が深まるほどに明るさを増していく。


 しばらく、星の光の降る音が聴こえるような、そんな沈黙が流れた。


 先に口を開いたのは涼乃だった。


「ねぇ、優磨。本当にあのとき助けに来てくれてありがとうね。本当に命をかけて私を守ってくれて。そして、ちゃんと生きていてくれて」


 うなずく僕に涼乃は強い眼差しを向ける。


「こんなに毎日鍛えてるのに全然役に立たなくて悔しかったな。今度優磨に何かあったら、その時は私が戦うから」


 真顔でそんなことを言うので、僕は軽く吹き出した。


「やだな、もう大丈夫だよ。そんな恐ろしいことなんて起きないから」


「ううん、わかんないよ。運命とか呪いとか死神とか、そんなこと関係なく、人生は何が起こるかわかんないんだから」


 そうか、確かにそうだ、と僕はうなずいた。


 これからも僕たちの間には様々な困難が待ち受けるんだろう。当たり前のように、強い向かい風が吹くんだろう。


「うん、僕たちは支え合ってやっていこう」


「なーんか結婚することになっちゃったしね」


 彼女が呆れたように笑うので、僕は盛大に焦った。


「あれ、もしかして嫌だった!? 結婚したいって思ってたのは僕だけ!?」


「違うよ! 私も優磨と家族になれたら嬉しい。だから、その、そうじゃなくて……」


 涼乃は頬を染める。


「もっとロマンチックなプロポーズがよかったの! あんな事務的な確認作業みたいなのじゃなくて!」


 そういうことか。言われてみれば確かにあれはひどかったかも。


 じゃあ、それなら。


 僕は立ち上がり彼女の正面にひざまずく。涼乃がぐっと息をのんだ。


 空には一面の星。川は清らに流れ、空気はどこまでも澄んでいる。

 こんな時にふさわしい場所、ほかにはないと思うんだ。


「夏原涼乃さん」


 僕は彼女の左手をとる。そしてその薬指にそっと口づけた。


「僕と結婚してください――僕と、家族になってください」


 頬を染めたまま、涼乃は微笑む。

 とびきりの優しさをたたえて。


「ありがとう。私も優磨と家族を作りたい。死ぬまであなたの隣にいたい」


 僕らはお互いの手を握りあった。

 これからずっと一緒にいられるように。どんな困難があっても、二人で乗り越えられるように。


 運命の力なんて借りなくても、二人で歩んで行けるように。




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