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杏奈が宿泊行事で、賢都が遊び歩いて不在の日、お父さんとお母さんは、涼乃と僕を連れてキャンプに連れて行ってくれた。
九月。まだ暑気が残るものの、車が山を登るにつれて、空気は澄んで、風が涼しくなっていく。
「優磨と涼乃ちゃんが結婚するなら、涼乃ちゃんは私の娘になるんだもんね」
家族で出かけることのほとんどなかった涼乃のために初めてのキャンプを体験させてあげようという名目だったけど、実際はお母さんが涼乃と仲良くなりたかっただけなんじゃないかな。
キャンプ場は山の中。大きなファミリー用のテントを張って、夜はバーベキューを楽しんだ。
「たくさん食べなさい。涼乃さんは少し痩せすぎだ」
お父さんは肉を焼いてはほいほいと涼乃の皿に盛る。彼女が断り切れないのを見て、半分くらいは僕が手伝って食べてあげた。
食後はお母さんがコーヒーを淹れる。こだわりの豆を自分で挽くのが最近のお気に入りなんだ。
僕たちは温かいカップを両手で包みながら、小川のほとりで夜空を見上げた。
お父さんとお母さんも少し離れたテント脇、二人の時間を楽しんでいる。
川沿いは木々が絶え、星々の光を地上に迎え入れていた。
そんな星空を見れば、自然とあの夜のことが思い出される。
「僕さ、散々殴られた後、お父さんが助けに来てくれて、その場に倒れ込んだでしょ。その時ね、東京じゃ見えないほどの星が見えたんだよね。まさにこんな空だったな、満点の星空」
「あの日は……びっくりするようなことがたくさんあったね」
僕たちがあの日のことを面と向かって話すのは、今日が初めてだった。
涼乃はショックを受けていたし――知らない男に卑猥な言葉を投げかけられただけでも、中学生の彼女を傷つけるのには十分だったはずだ。ましてや、ナイフを突きつけられるなんて――、僕自身も心の整理ができていなかった。
「ねぇ、優磨。ずっと聞きたかったんだけど、どうしてあのとき私があの駐車場にいるってわかったの? 駒沢公園なんて、ものすごーく広いのに」
ありのままに説明するべきなのか、僕はずっと迷っていた。
でも、決めた。
「それはさ、あれが二回目だったから」
「二回目……?」
涼乃は探るように僕を見る。
「そう、実は僕、一度生き残るのに失敗したんだよね」
涼乃にはちゃんとありのままに話そう。全部知ってもらおう。怖い思いをさせてしまうかもしれないけど、でも。
「一度君を守るために死んで、死神が僕にもう一度チャンスをくれたんだ」
一回目の失敗も、二回目の焦りも、全部君と共有する。
それで、僕たちは、その土台の上に立って、これから一緒に生きていくんだ。




