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残念ながら僕は夏原さんと同じクラスではなかったので(死神め、仲良くしろと言うならそういうところで気を遣ってくれればいいのに)なんとか彼女との接点を作ろうと試みた。
登校するたびに、視線で彼女を追いかける。
彼女が剣道部に入ったことはすぐに分かった。体験入部の初日から、毎日竹刀を持ち歩いていたから。
よし。僕は決意した。
僕も剣道部に入部しよう。
同じ部活で過ごしていれば、自然と仲良くなれるだろう。
そんな夢を見て飛び込んだ見学会で、僕は現実を突きつけられた。
この学校の剣道部は、公立中でありながら都内有数の強豪チーム。部員のほとんどが経験者で練習はハード。
何より、剣道は怖かった。
先輩が目の前で竹刀を構えるだけで、身がすくんで腰が引けた。あの長い刀が振り下ろされたら、僕はいったいどうなっちゃうんだ? 自分で竹刀を持つのもひどく怖い。この竹刀で何をどうしようって?
考え出すと全身が震えて、とてもじゃないけど竹刀なんて握っていられない。
怖気付いた僕とは対照的に、運命の女の子は武道場で躍動していた。
気合いのこもった連撃を、先輩部員に叩き込む。新入生とは思えない強さに、武道場がびりりと震えた。
――きれいだな。
僕はまた夏原さんに見惚れている。
無骨な武道場の中で彼女の姿だけ、まるで芸術品のようだった。
武具を構えてそれを振り下ろしても、彼女の立ち居振る舞いだけは精巧な美しさを秘めていて、その揺るがない強さに僕は圧倒される。
困った。途方に暮れてしまう。
彼女が僕の運命であることは間違いないんだけど。
こんなに強く美しい彼女に、僕なんかの助けは必要なんだろうか。
弱くて、情けなくて、竹刀さえ握れないような僕。
僕は、死神の予言どおり、彼女を守るナイトになれるのかな。




